幻燈日記帳

認める・認めない

3.0.2.

レコーディング再開。今度はバンドだ。佐久間さんとなおみちさんにはその後のリハーサルで会っていたけど、バンド全員で集まるのは3/14にベーシックの録音で会ったとき以来。3ヶ月近くかかってしまうんだね。今回はスカートのプロジェクトではなく、外仕事。スタジオも広いところだったのでソーシャル・ディスタンスも取り放題だったし、演奏が終わったあとのプレイバック、チェックの間はスタジオのドアをずっと開けっ放しにしたりするなど、可能な限りの対策が行われていた。メンバーはそれぞれの仕事が終わって解散だったけど、僕はその後も残って作業。スタジオにいるあいだじゅうずっとマスクをしていたから耳がとても痛くなる。次のスタジオ(こちらは矢部さんトリビュート)もそう遠くはないので早急な対策を取らなければならない。久しぶりのスタジオはとても楽しかった。でも久しぶりの録音がいつもと違うスタジオということもあって、なにか通常に戻るのか、という気持ちにはギリギリのところでなれず。

タルト屋さんになりたい

リハーサル再開。しかし条件付き。澤部岩崎佐久間の3人で、佐久間さんの家から近いスタジオに2人が車で向かう、というもの。他の2人は在宅で考えてもらってレコーディングスタジオで合わせていくことにした。スカートは全員住む地域がてんでバラバラで、普段は中間地点のリハスタに入るけど感染の拡大を抑える努力の結果、こうなることに。みんなと集まるのも3月半ばの3人リハ以来だし(ああ!ホールワンマンは結局全体リハは一度もできなかった!!)、アンプで音を出すのも久しぶりだ。知らない街の知らないスタジオで矢部さんのトリビュート盤の曲を合わせたり、仕事で演奏する曲を合わせたりする。全てがいい方向に向かい、リハーサルを終え、ロビーでだらだらしながら近況を話し合った。「職場の近くの評判のとんかつ屋、こんな時期なら空いてるかなって思っていったんだけど全然混んでたね」「ミュージシャンやってると家から出ないだろうけど」「街はもう割と普通でさ」と佐久間さん。行きの電車は混まないけれど帰りの電車は混むそうだ。そういえば、電車に乗るのは昼過ぎか夕方以降のことばかりだ。外の世界がただでさえ遠いのにまた遠くなった気がした。

リハーサルの前は医者にかかっていた。前日、改めて泌尿器科にかかり、レントゲンを新たに撮ったが「石が見えないんだよね〜一応CT撮ってきて」と言われ内心震える。都内にあるクリニックのどこがいいですか?と訊かれ、中野や新宿を押し除けて池袋を選択した。車で池袋まで向かった。クリニックの待合室ではNICE POP RADIOのXTC特集に備えて伝記を読んだ。新人バンドが評判を得て、夜な夜な熱いギグをするライヴレポートが転載されていて胸が熱くなった。そしてDrums & Wiresのツアーで客入りがとても悪かった描写に泣く。「トワイライト」のツアー、東京札幌は満員だったのになんで大阪名古屋あんなに人入らなかったんだろうな……とページをめくる指に気持ちがさらに入った。診察室に入り簡単な問診。酒は飲むか、タバコは吸うか、などを聞かれる。そして「エコーだと石があるっぽいんですけどレントゲンだと写らなかったみたいで。それで一応CT撮ってこい、と……心配で心配で。」と説明をすると「また2,3割はレントゲンでは写りませんからね」と言われ(……2,3割で爆発するロシアンルーレットなら嫌だけど2,3割打つバッターなら全然いいもんな……)と考えるに至り、心が軽くなった。CTを撮る時、若い医師が「これからCT撮るんで……ズボンをこちらが用意するものに履き替えて欲しいんです。これからお持ちしますんで」と言うので「そんなに大きいものありますかね……」と返すと、最終的には履いていたジーンズを腰まで下ろすという折衷案が提示された。あっけなく撮影は済み、会計もそれに倣ったようだった。池袋の街、それも西口は人もまばらでABCに初めて入り、洋食を堪能したのちココナッツディスクにも顔を出した。中川くんはいなかったが新入荷コーナーにはPrefab Sproutの"When Love Breaks Down"の12インチがあった。未発表、未CD化の曲がいくつか入っているやつでずっと欲しかったのでとても嬉しい。それとTeenage FanclubのEPを買った。

時間をリハーサル後に戻す。みんなと別れ、東京の東側から西側に戻る途中、錦糸町を通るルートを走っていた。突然ピンときて以前行ったアジアカレーハウスに向かってみることに。テイクアウトがあったらラッキーだ、と思って車を停め、錦糸町に足を踏み入れるとそれは数年前にきた錦糸町の感じのままだった。アフターコロナの世界とは?「どう?」と声をかけてくるおっちゃんもいた。目当てのカレー屋に着いて「テイクアウトやってますか?」と尋ねると「やってるよ」と即答。うれしいね!「2つください」と言うと店主が既に包んであったものを渡してくれた。こんなにスムーズにいくとは思っていなくて笑ってしまった。猥雑な街を背に2ヶ月ぶりなsuica決済で駐車場代を払った。そうしていたらその何日か後には歌舞伎町でのクラスター感染が報道されていた。少し混乱する。アジアカレーハウスのカレーは最高だった。チキンカレーとマトンビリヤニのセットで1200円だった。

レコーディングのためにトレモロエフェクターが必要だ、と自転車で吉祥寺まで出た。身体を動かす悦びに浸り、楽器屋を回ったのだが山野にあったもの一択しか選択肢がなかった。試奏して慎重に購入を決断。これで私はまた強くなった。

はごろもひろば

レコーディング再開。とりあえず歌入れから。ストイックすぎる現場ゆえか、もともと歌入れにはスタッフはあまり来ないけど最少人数で歌ってないとき以外はマスクしたり、アルコール消毒は徹底したり。喜ばしいのかもわからずあたふたする初日が過ぎ、2日目でまあ働かないとどうにもならないもんな、とちょっとだけ気持ちが落ち着いた。最後のレコーディングは3月末、そのままニューシングルのプロモーションに出ている間にアレヨアレヨと状況が変わり、4月頭に予定されていたレコーディングはすべて延期、そして今に至った。初日のレコーディングに長袖のシャツを着ていったらあまりに暑かったので、2日目の今日は半袖のシャツを着ていった。長袖のシャツをボタンもしめずにフラっと出かける季節がとても好きだったから、なんとも言えない気持ちになる。車を走らせているともう暑く、窓を全開にしてスタジオに向かった。今日は2曲分の歌を録った。1曲歌い終わって汗だくになってしまった。ぐったりとスタジオのソファに倒れ込み、汗が冷えた頃、目が覚めた。夕暮れが迫る街に繰り出し、スーパーマーケットのお惣菜を食べ、また歌入れに戻る。懐かしいような、まったく別のもののような、入れ物だけが同じで、中に入っているものはまた違った温度になってしまっていないか、そんなことを考えた。その後も歌入れには時間がかかったが、日付が変わる前には家に帰れた。CALLの頃は4曲ぐらい朝から晩まで録音して4時ぐらいに家に着くこともあったなあ、なんて思い出す。コンビニで買った弁当を食べておそらく明日から売られる「在宅・月光密造の夜 Vol.3」の音源を調整、コード譜をpdfにしたりしていたらこんな時間。

足らぬ布田CITY

水中、それは苦しいの新譜の惹句に「ジャンルは炙ったイカでいい」とあり椅子から転げ落ちるほどの衝撃を受ける。90年代から活動する水中、それは苦しいをはじめて聴いたのは高校生のときで、確か同級生で現ココナッツディスクの中川くんから教えてもらった。アコースティック・ギター、ヴァイオリン、ドラムスという編成で、どうとも説明し難い音楽性。それゆえに音楽とはなんなのか、ということを改めて考えさせられ続ける存在なのだが、そこを逆手に取り、八代亜紀の「舟歌」を引用してジャンルを放棄し、新しいアルバムの惹句にするのだ。ムーンライダーズのメンバーが全員30代になってから制作された"DON'T TRUST OVER THIRTY"をはじめて聴いたときのような爽やかとは言い難い、独特な感触の感動だった。

数日前から下腹部に違和感があり、あらゆる最悪を想定した後、意を決して医者に向かう。レントゲンを撮り、エコー検査等を受けているときに4年前に似たような症状で医師にかかり、石あるから気をつけな、と診断されたことを思い出した。バイトの帰り道ごとに500ml缶のマウンテンデューを飲んでいた10年前を懐かしみながら「これからはあまりジュースは飲まないようにしよう」と決めたものだが、あれから4年が経ちまあまあ普通に飲んでることも思い出した。4年前と比べてめちゃくちゃ悪くなっているという感じではない、とのことでちょっとだけ安心。採血は記録更新。最高記録は6回目にして断念、というものだったが、今回は9回か10回か忘れたぐらいかかってようやく採血できた。ヴェテラン医師と若い医師、どちらも女性だったのだけど、腕を見ながらふふふと笑って「血管ほそ〜い」と言われる。マゾヒズムの有効性について考える。何度やってもうまくいかず。でもいいんです、じゃんじゃんぶっ刺してください。私が悪いんです。そんなに痛くない、とわかっていてもこれから注射針を刺される、と思うとどうしても緊張してしまう。総勢3名の医師が入れ代わり立ち代わりでやっと採血が終わった後にはぐったりしながらもどこかハイにもなった。

Last December

プリンスの"the rainbow children"のアナログが届く。改めてプリンスに向き合うきっかけになったレコードだからアナログでの再発は本当に嬉しい。裏ジャケットにはられていたステッカーをきれいに保存するべく切り取っていたら鼻血が出た。8分近くあるラスト・ナンバー"Last December"は一瞬の気も抜けない大名曲で、何度もその音楽の中を跳躍して、見たことあるような、ないような、だがしかし在るべきところに戻ってくる。この快楽と言ったらない。そうして遠くのミネアポリスに思いを馳せる。"baltimore"を歌ったプリンスが今、もしいたらどんな気持ちでいたのだろうか。つらい出来事や棚上げされてしまったことがあまりにも多すぎていろいろついていけない。

Last December, a song by Prince on Spotify

なにか食べるものがないか、と冷蔵庫を見たが、何もなかったのでスーパーにいった。道中、ワイヤレスイヤフォンを拾ってしまい交番に届ける。なにかをなくしてつらい気持ちになるのも今の私には耐えられそうにない。どうか落として不便に思っている人がいたら見つけてほしい。あなたのワイヤレスイヤフォンは駅前の交番にちゃんとある。

夜はシンリズムくんとトーク。配信されているということを忘れたかのようにいろいろ喋りすぎた気がする。反省もしています。

4800円の呪い

ナイポレの収録のために自分のレコード棚を隅から隅まで見渡してみる。昔、はじめていったあるレコード屋で勧められるがままに買ったはいいのだけど4800円もしたレコードがある。聴いたこともないレコードに4800円ものの大金をポンと払ってしまった、という罪悪感(5/28追記:これには語弊があった!聴いたこともないレコードにお金を出したことに罪悪感が生まれたのではなく、「流されて買ってしまった」という罪悪感だった)がなぜか自分の中で育っていき、とても後ろめたいことをしてしまった、とまともに向き合うこともできていなかったのだけど4年も部屋のレコード棚になにくわぬ顔をして収まり続けたのなら、それはもうただのレコードだ、となり針を落とす。4年経っても4800円、と思い出すのだからまだフラットではないにせよ、Discogsで600円ぐらいで売られているLPだったとわかっても、複雑な気持ちになり続けても、こんなに素晴らしい曲が入っていたのか、という圧倒的な事実に触れ、最終的には笑顔になれた。この4年間の無意味な闘いは一体なんだったんだろう。

デモを整理して、譜面を書いていく。6月からは録音も再開できそうで、支度を少しずつしているが、どうにも体と頭が追いつかない、と部屋の片付けを少しだけした。

在宅・月光密造の夜 Vol.3

自宅ライヴ配信シリーズ、リクエスト大会仕様でお届けした「在宅・月光密造の夜 Vol.3」、怪我なく終了しました。現在、回していたLogicに張り付いてミキシングをしています。今回はリクエスト大会、と謳いみなさんから事前に頂いたリクエストを中心にセットリストを組みました。基本的には1位から3位は全曲やる、過去2回の配信ライヴで演奏していない曲を中心に選ぶ、というルールでやりました。それに加え、当日リクエスト枠も用意した結果、以下のようなセットリストに。事前リクエストでの順位が出ているものは備考も加えカッコ書きのなかに書きます。

1. スミレとヘルメット(一番乗りリクエスト) 2. ストーリー(1位) 3. 花百景(当日リクエスト) 4.返信(同率3位) 5. いつかの手紙(同率4位) 6.さかさまとガラクタ(当日リクエスト) 7. 私の好きな青 8. どうしてこんなに晴れているのに(同率3位) 9. S.F.(2位) 10.ラジオのように(当日リクエスト) 11.花束にかえて 12. ガール(同率4位) enc1. 古い写真 enc2. 彗星問答 enc3. 月の器

という非常に特濃な配信になりました。一見さんが楽しめたかどうかだけが心配です。1位だった「ストーリー」は11票、2位の「S.F.」は10票、3位の「返信」「どうしてこんなに晴れているのに」は7票でした。「いつかの手紙」「ガール」は6票で同率4位でしたが「暗礁」「君がいるなら」も同率4位でした。「私の好きな青」は3.5票(2曲投票している方がいたので0.5扱い)、「花束にかえて」も3票でしたね。「古い写真」に5票も入っていたのでアンコールで取り上げました。「彗星問答」の知名度で4票入ったら実質1位だよね、と思いながら演奏しました。「月の器」も4票入っていて驚きました。ちなみに「スミレとヘルメット」は3票、「さかさまとガラクタ」は1票、「ラジオのように」は4票でした。全体で222票のリクエストをいただきました。みなさま本当にありがとうございました。

アーカイヴは3/30までの公開です。今後、音源の販売予定もございますが、みなさまお早めに。

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