幻燈日記帳

認める・認めない

魔女を狩る(どうして?)

5日

 

ワンマンだ。リキッドに向かう車の中で自分の曲をひたすら聴く。少しでもライヴ感が体に戻ってくるように、とできるだけ大きい音で聴いて歌う。相変わらず扁桃腺は腫れていていくつか薬を飲んで備えてはいるけれども、一抹の不安もよぎる。だがハンドルを握りながら歌う私は調子が良さそうだった。会場についた。機材をおろしてステージを見る。リキッドルームの床には枠ができていて、そこにひとりずつ入る想定でチケットを売ったから通常時の半分ぐらいの定員。2020年の年間計画を立てたときには「8月にアナザー・ストーリー出して12月はリキッドワンマンだ!」と息巻いていた頃とは想定は変わってしまったけれども、なし崩し的にここに気持ちが戻ってこれたことが本当に嬉しい。

肝心のリハーサルでは不思議と手応えがなく、いや人はいったら音も吸われて変わるよ、昔だったらこういうときはこういうモニターにして〜とか細かくやれたけどそのへんのノウハウが全く通用しなかったようだ。臼杵さんのDJでリキッドルームが華やぎ、本番が始まる。序盤は個人的には調子よく飛ばしたんだけど、続けていくと久しぶりの大音量に耳というか脳が耐えられなくなっていってとたんに大いなる不安に胸が押しつぶされそうになる瞬間がたくさんあった。そのたびにお客さんの顔を見るようにしてみたり、場の雰囲気を感じるように努めた。そうしてらしくないんだけど「もっと自信を持ったらいいのに」と頭のなかでつぶやき、不安を振り払うようにガッと歌うシーンがいくつかあった。自分でもうまくいった確証がないまま袖にはけて素直に「今日の僕、大丈夫ですかね」と言ったら笑いながら「全然大丈夫!最高!」と社長が言ってくれたから安心する。無理矢理のアンコールも終えて楽屋に引っ込んだ。ゼキさんに声出てたね、と言われて(それはきっと不安を振り払おうとしたんだよ!)とは返せず、かと言ってどこかの椅子に座ってガッと落ち着くこともできず、久しぶりの達成感に浸ることしかできなかった。いろんな方が結婚祝いをくれた。ポニーキャニオンに至ってはタワレコの商品券!!!!!結婚してよかったです!!!!!!!

 

スカート ワンマンライブ "The Coastline Revisited Show" / 2021.12.05 (日) / TOKYO, JAPAN | KAKUBARHYTHM / カクバリズム

 

12/12までこちらで当日の様子は見れます。

 

6日

 

扁桃腺爆発。何か飲むたびに痛い。こういうときの対処法として好きなもん食うしかない、ということを知っている。なぜならその後膿がたまりまくって外科的処置をするしかなくなった過去があるから。たまごをふたつ入れた辛ラーメンをかっこむ。市販の扁桃腺の腫れを引かせる薬も飲む。そうして時間が立ったら朝の違和感は過ぎていた。

早速部屋で昨日のワンマンを振り返る。確かに喉自体の調子はよくなさそうだけどVICKS舐めながら歌える特殊能力が功を奏して問題ないし、どうしてあんなに自信がなかったんだろう、と不思議になるぐらい快調な場面が多く、フィジカルよりメンタルの方を鍛えたほうがいいのかもしれない、だなんて思う。

喉は良くなったけど一応医者にもかかった。以前別の医師にも言われたことを言われる。「寝ている間もマスクしてないとだめかもね」。自分の誕生日が刻印された領収書を受け取り、その後もどんどん復調していったので夜は予約していた虹の黄昏のMAXXブチアゲパーティを見に行く。何も考えなくていいエンターテイメントってこの世に本当に必要なものだな、と改めて痛感。カナメストーンもダウ90000も合同コントも最高だった。

 

8日

 

仕事で渋谷に向かう。楽しい収録を終えて、ポニー安田くんから「海岸線再訪」を1枚受け取って車に乗り込む。PARCOに車を停めてユニオンを冷やかしタワーレコードに向かった。KIRINJIの新譜がほしいし、パイドパイパーハウスに長門さんがいたら嬉しいな、と思ったのだ。揚々と公園通りの横の坂を下る。今まであまり来にしたことがなかったテキスタイルのお店と火薬のお店がある、ということに気がついて頭が混乱した。それもものすごく古い店だ。何度もこの坂道を通ったが、そんなお店があったことすら気がついたことがなくて、もしかして夢なんじゃないか、だとしたら妙にリアルな夢だよ、夢だとしたら店先にクレー射撃のフリーペーパーなんて置かないよな、とか納得される。夢ではないことを願いながらエレベーターに乗って6階に向かった。パイドについて見ると長門さんがいた。誰かと話していて、ちょうど別れるところだったらしい。長門さんに声をかけると「今日は多いな〜」と言ってエスカレーターを降りていった人に急いで声をかけた。TWEEDEESの清浦夏実さんだった。久しぶりの再会を喜び、本当にうれしい気持ちになった。「このあとは加納エミリちゃんも来るし谷口くんも来るんだよ」と教えてくれた。そこから少し話し込む。最近ミレニウムの「ビギン」の81年に出た日本盤を買ったらそれの解説が長門さんだった話し。壁に飾られているシュガー・ベイブのポスターの話し。ローラ・ニーロのライヴ盤の話し。「海外で昔作ったライヴ盤が再発されたんだよ。嬉しいよね。ぼくが京都で撮った写真も使ってくれたし、プロデューサーとして名前もクレジットしてくれたんだよ!Discogsで自分の名前がローラ・ニーロの作品に書かれているんだよ。もう死んでもいいと思ったね」「でもまだ再発したいアルバムもあるしね」とお元気そうで本当に嬉しくなっちゃった。ローラ・ニーロのライヴ盤といくつかのCDを手にとって長門さんと別れる。そのまま6階を流していたら浅川マキさんの80年代の諸作品がアナログで再発されていたと知る。「アメリカの夜」と「Nothing at all to lose」は買っていたけど、今回は3枚だ。しかし私には心強い味方がいる。ありがとうポニーキャニオンとレジでうなりながら会計を済ませた。他にもアナログフィッシュの新譜も買えた。

 

Miharashi - song by Analogfish | Spotify

OKYM

某日

 

スケジュール帳とやることリストを照らし合わせて頭が爆発する。仕事は山積み。だからこそ逃げ出したい。逃げ出したことによって向き合える締切もあるはずだ。そう考えた我々は岡山へと向かうことにした。前日も深夜だと新幹線+宿の格安プランはとっくに予約できず、新幹線も宿も満額支払うことになったけど、この何も入っていない日を逃すだなんてことを考えたらそちらの方が後悔しそうだったからもう構わない。薄々こうなるってわかっていたけどこうなるとしたらワンマン終わったあとだと思っていた。しかしその後もありがたいことにスケジュールがぽつぽつ入ってきてもう構わん!エイヤ!と新幹線に乗り込んだ。朝の電車に乗るのなんて随分と久しぶりだし、朝の新幹線も久しぶりだ。どちらも混んでいて時代の移り変わりを感じた。MV撮影の残り火を体に感じながら新幹線でレンタカーを押さえた。それから先はずっと眠りこけ、気がついたら岡山にいたのだった。レンタカーに乗り込み、目的地を設定。高梁市のまんが美術館を目指す。行けども山。ときどき町。カーブは続き、90分ぐらい経った頃、吉備川上ふれあい漫画美術館についた。電車もないような場所に突然現れたモダンな建物に驚きつつ、車を停めて外観を眺める。実に不思議な建物だ。入場を済ませて原画を見る。あのシーンの、このシーンの生原稿が!見られて幸せでした。Q&Aのコーナーで岩本先生もライララさんが好きだと知れて妙に納得。岩本さんの漫画のモノクロの扉絵が大好きなのでそのあたりの原画もいつか見てみたい…… 今度は倉敷へ向かう。グリーンハウスでかまやつひろしのベスト盤とこないだ京都で買ってあたりだったジョニー・ラドゥカヌの10インチ、YMOの1980年の武道館でのライヴ盤などを買った。レンタカーを返却、宿にチェックインして夕食をどこで摂るか考える。宿の近くに山冨士があったのでいつぞやぶりに向かった。知らない街の知らない繁華街を歩く。

 

某日

 

こないだ大阪に行ったときに入った、心斎橋の大丸に入っているハウス食品直営のスパイス料理専門店の店員さんから教えてもらったスープカレーなっぱを目指す。元は大阪で営業していたが最近になって岡山に移転した、と話してくれたのだ。せっかく岡山にいるのだから、と10時ぐらいにホテルを出てバスで向かう。知らない街の知らない街道。エロ本屋が未だに健在だ。東京のエロ本屋はどんどん潰れていってしまって、よく行っていた店もほとんどいかなくなってしまった。吉祥寺のソフトインと新宿ロフトの楽屋はおなじ匂いがする。そんなことを思い出しながら目的地についた。15分ぐらい歩いて到着。店には平日だと言うのに開店前だというのにすでに列ができていて、名前を書いて待つことになった。1時間しない頃だったか名前を呼ばれて、オーダーを伝える。しばらくすると店内に通され、座席を用意してくれた。窓の外は山。音楽が軽快にかかり、いい香りがしていた。運び込まれたカレーは絶品で、妻が注文したエビのカレーもエビが得意ではない私でもおいしく食べることができた。帰り道にすぐとなりのリサイクルショップでニッキー・ホプキンスの"No More Changes"という1975年のアルバムがカット盤で300円で転がっていたので購入。店内では佐藤奈々子さんのアルバムがかかっていていい場所だ、と思った。一瞬だけ天満屋に行こう、という話になり、私はそのままGroovin'を一瞬だけ見る。ジミー・ウェッブのファーストがあったので購入。天満屋では岩本先生が話していた大手まんぢゅうを購入。ホテルに向かい、預けていた荷物を受け取り、岡山駅でお土産をさらに購入。14時半発の新幹線に乗り、家についた頃には19時のほんの少し前だった。急いで支度をしてそのままナイポレの収録。頭がふわついていて言葉がうまく出てこなかった。大変失礼しました。

ゆれゆ

某日

 

MVの衣装合わせで事務所に向かう。いつまで経っても慣れない。けど、こんなサイズの可愛い服がこんなにこの世にあるなんて、って思えるだけでどれだけ救われることか。そしてそのとき着ている服の値段をきいてまたこの世を恨むのョ。衣装合わせが早く終わった。社長は「次の現場、XXでしょ。だったらそこの街でマッサージ受けるとかもいいけど、ぼくだったら行っちゃうね、ユニオン」という言葉を聞いて、つい先日のタワレコで爆買いしてしまった過去をさびしい手のひらに写してみる。とにかく渋谷へ向かった。明後日収録の本番があるのにギターの付属品が入ったケースを預けてしまったので替え弦がないとちゃんと気づけたのでイシバシ楽器へ向かう。このビルの1階にはその時代その時代のスイーツ店が出ては入ってを繰り返していた時期があるんだけど結局クレープ屋が入ってそれで安定しているのを見て、今の日本に重ねたりもする。店のなかをかるく見渡す。ライヴで使っているキーボードをもっとグレードアップできないか、とかいろいろ見渡すがスカートがもっと売れてから考えることかもしれない、だなんて笑ってしまった。

そうして私はユニオンに向かってしまう!だがビルはもぬけの殻!そういえば移転したんだった、と移動。階段を降りて店に入り、知らない店なのに雰囲気は超ユニオンだったから脳が軽くパニックを起こす。はじめての店だったからじっくり見たかったんだけど、渋谷は駐車場代が高いからはやめに切り上げざるを得なく、新入荷をかるくなめるだけにしてしまった。しかしミレニウムの「ビギン」81年の日本盤とキャロル・ロールの91年作のアナログ盤があったので購入。どちらも2000円ぐらい。「ビギン」は当時スタッフをやっていたイヴェントの主催者のあきとさんに勧めてもらったソフトロックの1枚で、Preludeを聴いたときの衝撃は本当に忘れられない。そしてPreludeの衝撃が強すぎて大学入るぐらいまでアルバムを全体像で把握しきれなかったアルバムでもある。昔、1500円ぐらいの輸入盤新品のアナログがよく売られていて、この値段ならいつでもいいや〜とか後回しにしてたら10年ぐらい経ってたし、その頃にはもう手に入らなくなってたからこうやって手に入ったのが本当に嬉しい。社長にも感謝。

別件で動いている仕事を1件こなして家路につく。世間がビートルズの話ばかりしているのでついビートルズを聴いてしまう。シャッフルにしてたら"There's A Place"がかかってシビれる。昔きいたときはこんなにいい曲だなんて思ってなかったからドキドキしちゃった。

There's A Place - Remastered 2009 - song by The Beatles | Spotify

 

家に帰って弦を張り替えながら録画していたテレビを見る。明日が入りが何時だから、と時間を逆算して絶対8時間眠るんだ、という気概のもと、仕事とapexの両立を夢見ながらついつい「ビギン」に針をおろす。これだよ、これ、というはじめて聴いたときと同じ感動が襲ってくる。大いなる感動!昔は1曲目が良すぎて3曲目ぐらいで止めちゃってもう一回あの1曲目聴かせてくれよ!ってやってたけど、さすがにおとなになったのか最初から最後まで静かに興奮しながら聴けた。事実上のラストナンバー、"There Is Nothing More To Say"なんて大名曲、Spotifyで1000万回とか再生されるっしょ、とか勝手に思っていたけど約13万回再生でやはりこの世は間違っている、と改めて認識をする。

There Is Nothing More to Say - song by The Millennium | Spotify

サンキ・ュー

某日

 

街裏ぴんくさんの独演会に行く。何度見ても知らない角度の話が永遠に続く。頭の中を覗いてみたい、という常套句があるけれども、ぴんくさんの頭のなかを覗いてみたいよ。関係ないけどパンドラの箱ってあらゆる悪いものが出て、最後に希望が残る、って美談ぶってるけど、悪いものが出たということは希望ぐらいでは帳消しにならなくない? 帰りに渋谷の街を歩く。シブヤツタヤの地下1階のコミックフロアに寄った。コロナ禍以降多分寄るのははじめてなんだけど、あまりの変わりようにめまいがした。寄り付かなくなってしまったぼくが一体どんな文句が言えるんだ、というのはわかっているのだけどこころはぐんにゃりとする。おきらくボーイ先生の「オガペペ」を手にとってレジに並ぼうとしたら、成年漫画のコーナーが1/4ぐらいに縮小されているのに気がついた。店舗別の特典とか気にしなくなってからはここでさくっと買えるのがありがたかったのに。これから先、いつかの日常が戻ってきてもシブツタの地下は戻らない。

 

某日

 

仕事で渋谷へ行き、帰りに渋谷の街を歩く。お惣菜を探し求めて東急本店に向かうもすでに閉店。かつてエロ本屋があった通りをわざと通って駅チカの東急へ。少しだけ買ってなんかアガらなくて西武百貨店の諸国銘菓だけ流す。美味しそうなようかんがあったのだけどお酒の入っているやつでぼくよりもアルコールがだめな妻とシェアして食べることもできない、と思ったのだが妻から「(どうぶつの森の世界は)サンクスギビングデイだからなんでも買えばいいじゃん」というので買うことにした。西武百貨店の諸国銘菓が東京でいちばん好きな場所かもしれない。古いデパートの地下。階段降りたらすぐのパラダイスだ。

 

カーネーションの新譜が欲しくてタワーレコードに向かう。6階にいけばどうにかなるかな、とエスカレーターをのぼっていくと、パイドのコーナーに置いてあったので6階だけで事足りた。他にもアナログ出るから待とう、とおもっていたはずなのに実際店頭で見たら手を出さずにはいられなかったブライアン・ウィルソンのピアノ盤、グソクムズの7インチなどを購入。グソクムズの7インチが990円で泣いた。世界はまだ美しいのかもしれない。

 

某日

 

ダウ90000の寄席を見に行った。仕事が入っていたので見に行けなかった「あの娘の自転車」でやっていたという噂のバーカウンターのネタも見れた。本当にすごい構成で、加賀さんが外に出て「さいこーーー!」っていうのもうなずける内容だった。ママタルト、かが屋ラブレターズ、ダウ90000という流れが実に最高。

 

某日

 

仕事の帰り道、伊勢丹に寄る。6年前に急性扁桃炎で入院して以来、伊勢丹で売ってる1番高いマヌカハニーを買うことにしている。1年ぐらい前に買ったのがなくなってしまったからそれを買った。14900円。まじかよ。正気じゃない。でもいい。これはおまじないなのだから。今年の夏、伊勢丹のアプリを入れるだけ入れてこっそりポイントをためていたのだけど今日、そのポイントは30万円以上買い物してないと特に意味ないと知って膝から崩れ落ちる。おれのセレブライフは遠い。

 

そのままタワーレコードに向かった。先日の渋谷で無果汁団の新譜を買いそびれていたのだ。エレベーターでCLOSEと表示されている7階と8階に念を送り9階で降りる。4フロアが2フロアになったもんだから結構なカオスになっていて少し混乱した。さすがにスカートの面陳はなくなっていたけど過去タイトルすべて置いてあってうれしい。本当に嬉しい。無果汁団の新譜を無事購入し、ついでに上の階も……と見に行くとそうだった、世はレコードの日だった。かえぽの7インチとLOVE JETSの7インチ、ハッピーズ、ダイアナ・ロスの新譜などを購入。会計をしているときにふと店の奥の方を見てみるとかつて新宿の街を見渡せたおおきな、おおきな窓が塞がれているのが見えて、そうか、ここは新宿のタワーレコードの10階だったんだ、かつてのニューエイジの試聴機があったときよりもいい景色が見れたあのタワーレコードの10階だったんだよ、ということを思い出してこころがぐしゃぐしゃになった。TOWER VINYLができてお店をみたときのうれしい気持ちを忘れないように生きていこう、そう唱えた。泣きそうな気持ちで会計を済ます。店内ではoasisのライヴ盤が流れている。どういう気持ちでエレベーターのボタンを押せばいい?考えあぐねいていると駐車券にスタンプを押してもらうのを忘れていたと気がついた。安心ともつかない妙な気持ちで店内に戻って店員さんに駐車券のスタンプを押してもらったら声をかけられる。うれしい気持ちとかなしい気持ちがないまぜになっちゃってぼくからも「改装してはじめてきたんですよ……なんというか、ちょっとさみしいですね……」と弱音を吐いたら「でも!CDの在庫数は前と変わっていないんですよ」と教えてくれて少しだけ気が楽になった。車に乗り込み、買ったばかりのダイアナ・ロスの新譜を聴きながら家に帰った。ぐしゃぐしゃのこころに染みまくった。

 

Thank You - song by Diana Ross | Spotify

だいぶ遠い都市

某日

 

池袋のIMAXのさらにすごいやつでDUNEを観る。ところがはじまって1時間も経たないうちに音響すごすぎて具合悪くなってしまった。最初に具合悪くなったのは虫みたいな偵察機が飛んでるシーン。階段を斜めから撮る戦闘のシーンで完全にだめになってしまった。映画館を出ようとも考えたのだけど、息も絶え絶えたまたま持っていた耳栓をつけたとき、ものすごく手が震えていたのでこの調子じゃとてもじゃないけど立ち上がれない、と判断して30分ぐらい目をつぶっていた。どうしてDUNEを見ようか、と思ったか、というと佐久間さんと優介が楽しそうに話していたからだった。佐久間さんは普通の2Dでみて、優介は僕が観に来ている池袋の映画館に観に来たのだそう。規格が違うらしくスクリーンがとても広いそうだ。だからシーンによっては上とか下とか切らないといけないんじゃないかな、と優介が言ったあとに佐久間さんが「あのオヤジが上にあがるシーンどうなっちゃうの?上のバッティングセンター(この映画館の上にはバッティングセンターがある)に行っちゃうの?」と言っていたのが本当におかしくて観に行くことにしたのだった。ああ、よこしまな気持ちで映画館に来たばちがあたった。あまりに長い時間が流れ、上映が終わり、しばらく立ち上がれず、シャツのボタンをあけたり、上映前のはしゃいだ気持ちで買った爽健美茶のLサイズを必死に吸ったりした後、ようやく動き出せた。映画館の下にあるレストラン街みたいなところでカフェに入ろうとしたら店内BGMの音がでかすぎて踵を返す。火鍋でおなじみの小肥羊がカフェメニューもあるというのでそこに飛びつき、あたたかいジャスミン茶で少しずつ復調。そりゃあんまりだ、と遅くまで開いているジュンク堂で本を数冊買って帰った。

 

某日

 

すっかり夜になった頃、取り置き期限が明日にせまったレコードを取りに自転車で吉祥寺のユニオンに向かう。その前にアトレの1階のお惣菜コーナーを巡り、安くなった惣菜をあれやこれやと購入。期間限定で入れ替わるコーナーにいきなりだんごのお店、くま純が来ていて、なんとなくいきなり団子と芋餅というのを買ってみた。ははーん、ソーセージも買っちゃおうかな、とか余裕でいたはずなのにPARCOに向かうとすでに20時を越えて閉店時間になっていた。21時ぐらいまで開いていると勝手に思っていたからショックだった。そうか、私も勝手にコロナ後の世界にいるつもりだったのかもしれない。少し気を引き締めなおそう、と心に誓い、アトレに戻って揚げ物を追加したのだった。

 

某日

 

車検のため、ひとり実家に向かう。兄は有給消化の旅行で居ないそうで、両親と実家に居た頃はよく行っていた中華料理屋で昼食を摂る。両親に結婚の報告をした。静かな平日の昼間である。車をいつも見てもらっているところに預け、吉祥寺に向かいたい、と言うと父親が吉祥寺までの直通のバスが出ている成増まで送ってくれた。「3時前だっていうのに陽が傾くのが早いねえ」と言う。Google Mapで成増→吉祥寺で検索すると電車で行った方が全然早いそうだが関係ないのだ。高校生の頃にココナッツディスクに向かうとき、このバスに乗ったし、実家を出てみんなでシェアハウスした街を通るバスに乗る。暮れていく街を眺める。ときどき人が乗るけど決して混んではいない。車窓に外に街が映り、その窓に反対側の景色が映り込んでいる。ああ、夕暮れがくる。気がつくと眠ってしまっていて、目が覚めた頃にはすっかりそれらしい街になっていた。バスで吉祥寺についてユニオンに向かう。店頭でかかっていた音楽が最高で「ぎゃー」となりNOW PLAYINGのコーナー見てみたらそれがエルヴィス・コステロだと知る。そうか、これが、エルヴィス・コステロなのか。取り置きしていたものも受け取り、かかっていたコステロのCDも買った。ユニオンを出るとすっかり夜。アトレに向かっていきなり団子を追加で購入。あまりにおいしいので冷凍してでも保存しておこう、と決めたのだ。お店の人に「たくさん買っていただいてありがとうございます~」と言われてしまった。塚田水産でおでんの種も買って、そのときの俺は完璧だった。

ダムならば花

某日

2日連続で真夜中のサイクリング中に職質を喰らう。ジャージ短パンという姿が悪かったのだろう、と反省し、ジャージジーンズという出で立ちに変化。すり減っていくジーンズの断末魔を聞きながら走った。

 

某日

リキッドルームでのワンマンが発表された。スカートで最初の企画を江古田のプログレ喫茶で打ってから13年。高校の頃、ゆらゆら帝国とかの話ができた数少ない同級生の武瑠くんがやってるバンド、SuGがリキッドでワンマンやってるって知ってから13年でもあるのです。いつかはリキッドでワンマンやりたいな、とそのときに思ったのだけど、現実は丁度いいところに壁をつくり、周りのバンドがどんどんリキッドでワンマンしていく後ろ姿をみつめてきました。10年やって結局ヒット曲はなし。いろんなライヴやってきて、どのライヴも思い入れがあるものだけど、こればっかりは観に来てくれ〜と言わせてほしい。先行受付中です。

 

スカートのチケット情報(東京都) - イープラス

 

某日

夕方、久しぶりにロイヤルホストに行ってノートを広げる。12/5に決まったワンマンライヴのセットリストを考えるためだ。ヤリイカフリットとドリンクバーを華麗に決めて、自分なりのコンセプト、こう見せたい、あの曲やりたい、とかを思い浮かべ、あーでもない、こーでもない、とノートに書き込んでいく。あの曲からこの曲に行きたいけどそうするとここでこういうパーツが足りない、カポある曲だから次もカポの曲にしたい、できれば1カポ、ぶつぶつ……、集中力が完全に切れ、パフェを食べたりしながら、なんとか自分の中で一本のものにして一旦スタッフに送信。

 

某日

街裏ぴんくさんの配信を見逃してしまったことに気がついて我が身を振り返る。その過程でなぜか「エス・オー・エス」作ってるときの制作メモが目に入って読みだしたら「いままで作った曲をちゃんと録音して、レコードを作るんだ、と息巻いていたはずなのだが、気がついたらすでにあれほど暑かったはずの夏はあけていた。」と書いてあって膝から崩れ落ちた。俺は何も変わっていなかった。俺はなんにも変わっちゃいなかった。昔の私は創作意欲に満ち溢れていて、書いても書いても曲が湧いてくるような気がしていて、今の自分に少し後ろ暗い気持ちでいたのだけど、全くそんなことはなかった。ぴんくさんの配信は見逃してしまったが大切なことを知れた。みなさんにも大切なことを知ってもらいたいのでこの世のすべてが詰まっている動画を紹介します。

【ヤバヤバ先生のヤバ授業】『理科』 - YouTube

 

ついでに「エス・オー・エス」の制作メモはこちら。

エス・オー・エスの録音に関するあれこれ - 幻燈日記帳

 

 

あみ進化

某日

リハーサルに入る。ぼっろぼろ。「駆ける」の2Aとか全く覚えてなかった。自分で仕掛けた罠にかかって身動きが取れなくなるみっともなさ。リハーサルの急遽の追加を決定。本番は待ってくれない。

 

某日

恋人がM1の2回戦を見に行くというので車で浅草まで送っていく。おにぎり屋でおにぎりを食べていると調子のいい店員さんが「ふふ、完全に見た目で判断しちゃうんですけど次はどこのお店に行くんですか?」と笑いながら言ってくれた。「もうそういうのはやめにしないか」と口からでかけて、いやいや、ファニーなご挨拶じゃないか、悪気がないのはわかっているんだ、とその言葉を飲み込んで「いや、どこもよるつもりはないですよ」と笑いながら言って店を出た。恋人は5656会館へ、私は車に再び乗り込んだ。この日、私はそのまま東都レコードとか普段あまりいけないレコ屋に行こうと思ったのだ。ところがその日はとうとレコードは休業日。走り出した車は行く宛をなくし、すかっとしない気持ちだけが積もっていく。路肩に車を止めて、どこに行こうか考え、とりあえず御茶ノ水界隈のユニオンでも行こうかな、と車を走らせた。レコード屋を見るのにパーキング・メーターはうってつけの駐車場だ。1時間と時間を決めれば諦めがつく。幸い、神保町のユニオンの近辺はパーキング・メーターがたくさんあり、あたりをつけていたのだが、すべて埋まってしまっていた。ここで別の場所を選んだらもう今日は一日だめに違いない、そう思えてなんだか諦められず、何十分かぐるぐる回ってやっと車は停めることができた。肝心のユニオンは収穫なし。と言っても不思議と目が滑っただけで、本当はきっといいレコードやCDがいくつかあったはずだ。そうしてジャニス2に向かう。はじめて行った。ジャニスの遺伝子を感じて懐かしい気持ちになる。ソフトロックのコーナーに入れられていたイスラエルのCDが妖気を発していたので購入。1時間近くになっていたので車に戻る。するといつもはひどい行列のまる香の列がだいぶすっきりとしていた。おにぎり屋の人の顔が浮かんで消えた。私は車を1mほど動かし、別のパーキング・メーターに停め直し、数分後には釜玉うどんをすすっていたのだ。この日のかしわ天はまた格別なのであった。おにぎり屋の人に対して少しでも気分が悪くなった自分を呪う。その後、駅前の方に車を動かし、またユニオンへ。パソコン音楽クラブとあらきなおみさんの新譜といくつかの中古品を購入。M1の2回戦、後半はだいぶ席が空いて当日券で入れると連絡があったので5656会館に向かった。そのへんのコインパーキングに停めようかな、と思ったのだけど5656会館の軒先に「駐車場 30分300円」と書かれていたので5656会館に停めることにした。車を停め、受付の方に「車を停めたい」と言うと「17時終わっちゃうんだけど…あ、M-1観に来た方?それならいいよ」と停めさせてくれることになった。後で受付の方に直接お金を払うタイプの駐車場だった。検温、手指消毒を済ませ会場に入る。3ブロックだけ見れた。1時間とちょっと経ったぐらいで5656会館を出て、受付の方に駐車場の精算を頼むと1500円だと言われ、顔色ひとつ変えずに「はい!ちょうど……あります!」と言って5656会館を去る。恋人は「去年は行ってないからわからないけど少なくとも2年前は2回戦が一番楽しかった。プロもアマチュアも関係なく楽しめた感じがあったけれど、今年はプロばかりが強くて」と言っていた。

 

某日

仕事が一区切りした!ので積んでいたCDをリッピングしていく。パソコン音楽クラブの新譜をリッピングする際、「さまざまなアーティスト」にチェックが入っていたのでそれを外し、フィーチャリングのある曲のデータを手打ちでひとつひとつ直していく。たとえば「潜水 / パソコン音楽クラブ & 川辺素」となっていたら「潜水 (Vocal. 川辺素) / パソコン音楽クラブ」に変えていく。そういう孤独で虚しい作業をしていた。今回買っていたのに聴けていなかったCDの1枚にザ・サークルのネオンがあった。90年代の再発をCDで持っていたり、レコードでも持っている。大好きなアルバムだったのだけど、近年のCD化でボーナス・トラックが追加されていると知り、手に入れた。リッピングしたデータを聴きながら解説を読んでいると、大好きな「すてきなダンス」の項に「どこまで本気に取り組んだのか疑問が残る」と書いてあって驚く。シタールが調子っぱずれなことを具体例として挙げていたけど、ここまで丁寧に編曲、ミキシングされているのにそう思う人も居るんだなあ、と結構本気でカルチャー・ショックを受けてしまった。「トゥ・ルームス」も「あっけなく終わってしまうのが残念でならない」と書いてあり、僕はあの短さに惹かれていたから余計にカルチャー・ショック。他にも、松永さんがTwitterに書いていた「海や山の神様たち」なんかも買った。若き日の坂本龍一さんと山下達郎さんが参加した1975年のアルバム。これは昔ズーシミも薦めてくれていた気がするけどどうしてか聴かないで今まで来てしまっていたことを後悔するような最高盤でした。

 

坂本龍一/海や山の神様たち -ここでも今でもない話-