遅くまで起きていて、疲れているはずなのに、まだ眠れないのはおそらく、このPVのせい。「ABCD」リスナーの人たちに最初に届くのが、この曲なのだ。このトラックとビデオにはある象徴的なことがいくつかある。スピード感のある昆虫キッズの演奏と、疾走感のある豊田道倫のヴォーカルも、ロックンロールエチケットに倣ったものだということも出来るが、やはり、映像で飛び交う光、そして、その後ろにできた、幾重もの影。この影が重要なのではなかろうか。「おまえは負けたよ」という声が聴こえてもそれを「ああ、わかったよ、わかったわかったわかったわかった」と吐き捨てるように叫ぶ豊田は、なにを見つめているのか。視線はサングラスをかけているから解らないが、それは観る人が補填すればいい事だ。強い光を放つのが、昆虫の演奏だとすれば、そこに、影を落とすような、豊田のヴォーカル。これは、光と影の調和だ。なにかを混ざり合わせて作るものがポップのヒントになるとしたら、このレコードは間違いないポップ・アルバムで、そして、このトラックは最高のロックンロールだ。今時の辞書ならロックンロールの意味だって載っているだろう。大辞林で調べると「強烈なリズムのポピュラー音楽」と書かれていた。まさに、そのマナーに則っている。「俺は終わってる/やっと言えた/耳を切ろうか」とうなだれたように歌う豊田の声。耳を切ろうか、と歌った途端に、ステレオの真ん中にあった豊田の声が右のスピーカーに寄って行く。実際に、ゴッホが切った耳は左耳だったのだ。さて、あなたは「ABCD」をどう聴く。