幻燈日記帳

認める・認めない

オー!トラウト



真夏にキャメルのコートを着たわけではないのだが、汗だくになってしまった仕事の帰り道、寄り道をしようかしないかめちゃくちゃ迷って寄り道をしなかったのだけれども、どこかで釘を踏んでしまったらしく車がパンクしてしまった。目白通りはこんなにもガタつく道だっただろうか、いや、そうではない、と意を決して路肩に停めてタイヤを一つずつ確認すると後輪の左側に悲しい顔をしたタイヤを僕は見つけるのだった。ロードサービスに電話をかける。コールセンターの女性が「今はどこも混んでいて1時間近くかかってしまいそうです」と申し訳なさそうにいうけれども、身動きは取れないのでロードサービスを待つしかなかった。例えば15分の待ち、みたいなのが一番気持ちの置所に困る。1時間待つ、と先に言われると気持ちがおおらかになり、運命を受け入れるしかない、というところに自分を持っていけるからいい。ハザードをつけてぼーっとしていたら1時間経ってしまっていた。山積みの考え事をひとつもしなかったのがよかったのかもしれない。気のいい兄ちゃんたちにトランクの下にあった緊急用の予備タイヤに交換してもらって部屋に帰った。


マネージャーから連絡があって、実はさっきこういうことがあったんだ、と話すと「車のトラブルは落ちますよね〜」と言われて「そうなんだよね〜」だなんて返していたけれども、あのロードサービスを待つ夕暮れの一時間になにかあった気がして不思議とそこまで落ち込まなかった。寄り道すりゃよかったかもね、とは思ったけれど「あーあ」とタイヤを買い換える憂鬱はまた別だ。


電話を切って数時間ふて寝。起きてから仕事をすればいい、とか言いながら朝まで寝るやつなんだろうな、と思ったけど、無事に目を覚ましてしまった。友人からの電話にキャッキャしつつも頭が回らず嵐の匂いのする公園のそばを通ってコンビニへ。向かう途中、このあたりじゃめったに見ない空車のタクシーが2台続いた。夜には夜の顔がある、そういうことだろう。頭がまわらないときは甘いシュワシュワのジュースに限るね、とグレープスカッシュを買った。帰り道、公園のそばの木々から強風で銀杏が落ちていることに気がついた。「もうすぐ秋だね」という詩を思い出して感情が逆立つ。これは絨毯を撫でたら色が変わったようなニュアンスだ。強い風に煽られて誰かの部屋のすだれが揺れていた。