幻燈日記帳

認める・認めない

尾道広島大阪

想定していた時間よりも少し遅く目がさめる。すぐに支度、ホテルをでる。外は雨が降っていたので徒歩2分のコンビニで傘を買った。スーツケースを駅のコインロッカーに預け、尾道に向かう。福山から尾道は20分ぐらいで着く、と昨日聞いていたのだ。耐震のためか柱にワイヤーが巻きつけられ、天気のせいだけじゃない薄暗いホームで電車を待った。定刻通りに電車は着いた。ぼんやりとした雨雲を裁つために電車は走ってくれない。

尾道に着いたはいいのだが1時間後の電車に乗らなければならない。昨日仕入れた情報をもとにたつふじまでタクシーを飛ばす。横付けしてもらうと数人並んでいた。尾道ラーメンといえば晩年のサンデーサンにあったメニューだ。高校の頃、学校のそばにありよくたむろしていたし、先輩はバイトのウエイターに「いつもの」というとほうれん草のソテーとドリンクバーのオーダーが通るようになっていたりした。色々思い出の詰まったファミレスが閉店してしまう少し前、メニューに「尾道ラーメン」が追加され、よく食べた記憶があるのだ。そして、それ以降尾道ラーメンは食べていない。埃をかぶった記憶というのは総じて美しくなるものだけれども、その思い出を前にしてもグッとくる美味しさだった。ただ、尾道の街を歩いた先にこのラーメンがあったらもっとうまかっただろうな、と思った。思ったよりも早く平らげたので歩いて駅まで戻る。知らない街を歩くのは楽しい。学校が終わったあとなのだろうか、男子3人、女子1人の中学生をちょっとずつ追い越そうとした時に会話が聴こえてきた。「おれさ、髪型どうしよう」「坊主にしろよ!」「ツーブロックがいいんだよな〜」なんて男が言っているとショートカットの女子が「私、これから髪伸ばすよ!」「うそうそうそ」「そしてね」「成人式の時にまた切る」と言って、男子はどう返していいかわからなそうだったのがすごくよかった。途中に挟まれた「うそうそうそ」とは何だんたんだろう。十字路で彼らはまっすぐ、僕は右に向かってしまったから、彼女の表情ももう読み取れないし、少年たちがそのあと、彼女とどんな話をしたのか、もう知ることができない。マネージャーと落ち合う福山へと向かう電車に乗り、車窓を眺める。突然、線路沿いの建物のガラスに今乗っている電車がバンと反射した。黄色い電車だったんだね。

広島に向かいキャンペーン。最初の生放送で「尾道ラーメン食べてきたんですよ!つたふじで」とオフラインで言うと「正確に言うならば」「つたふじは尾道ラーメンじゃないと言う意見もある」詳しく訊きたかったのだが生放送のラジオ番組なんて儚いものですぐに別れの時間が来てしまう。キャンペーンを終えて一泊するかどうしようか迷うが、その前にレコード屋へ行こうじゃないか、とGroovin'に向かった。7インチを中心に洗っていく。秩父山バンドの7インチ、マック・ドナルド・ダック・エクレアの7インチ、ザ・ムーヴの謎ベスト盤、さらにはサニーデイのMUGENのLPも買ってしまった。MUGENは安くはないがいまだにどんどこ値段上がってる気がするのでトドメをさす気持ちで購入。いい買い物ができた、と隣のディスク・ステーションも覗く。CDはそんなに熱心に見なくてもいいかな〜とか思いながら店内を物色していたら「でかジャケCD」(アナログサイズのジャケットを持ったCD)のコーナーを見つけたので普段だったら見ないのになぜかひょいひょいと指を動かしていた。するとマイクロ・スターのファーストLPが新品で置いてあるじゃないか!リリース当時、欲しかったのに買えなくて、あれよあれよとレア盤になってしまった作品が今!新品で!

思いがけない出会いに気を良くして「これは泊まらないで帰れって言うことだな」と解釈。広島駅に戻り最終の新幹線を手配したのだった。お土産を買い込み、新幹線に飛び乗ったまではよかった。岡山を通過、神戸を通過、新大阪に着いたのだが新幹線は止まってしまった。静岡で豪雨が発生、運転見合わせとのことだった。待てど暮らせど新幹線は動く気配はなく、隣の席のサラリーマンの咳も次第に大きくなっていく。自衛も込めてマスクとヴィックスを差し上げた。しばらくすると頭の中に悪魔が現れて「あれはね、泊まり込んでも広島のレコード屋をそのまま掘り続けろ、と言う解釈が正しかったんだよ」と囁く。「過ぎたことは仕方がないじゃないか!」新幹線を飛び降り、自販機でポカリを買って座席に戻った。それからしばらく大人しく待つのだけどこりゃどうにもならない。駅員さんに訊いてみると「この後動き出します。目処が立ったんです」「ですが東京に着くのは3時ぐらいです」その言葉を聞いた時、大阪に泊まる事を決意した。差額分の払い戻しを受け取り、慣れない土地で宿をとり、向かう。地下鉄から上がるととんでもない土砂降り。ご挨拶じゃないか。本当だったら自宅で食べるはずだった「むさし」のお弁当を宿の部屋で食べる絶妙な虚しさよ。