幻燈日記帳

認める・認めない

真説・月光密造の夜

眠れない夜は知っている曲しかかからない自分のラジオを流して眠るといいのだ。その日も眠れないだろうなあ〜なんて思って先回りして自分のラジオをかけたがすぐに眠れた。真夜中にすごい汗をかいていて目が覚めたりしたけどただただ自律神経がバイナラしちゃっているようだった。

朝起きてシャワーを浴びて昨夜の残り物で朝食とする。「魔女」と「月の器」は昔の曲過ぎて、なおかつ最近演奏してなく、歌詞カードを印刷していなかったことに通しリハのときに気がついて、それを印刷して五線譜に挟む。本番で着る長袖のシャツを2着+1着、半袖も1着、Tシャツを2着用意して車に乗り込んだ。BGMは岡村靖幸さんを全曲シャッフル。久しぶりにライヴをするという緊張、なんなら久しぶりだし大失敗するんじゃないか、ここ数日喘息も芳しくないし、いやでも純粋に楽しみだ、みんな見に来てくれるんだろうか、いや見に来てくれたとして今やるべき理由って本当にあるのだろうか、そもそも私がここにいる意味って……?と感情がぐちゃぐちゃになっていくたびに「P.A.R.A.C.H.U.T.E. Girl」「シャンパン酒の持つかなりのほら苦さ甘さを経験してんだろ」「若い心臓は9.9の超絶ワザ決めたい」と歌うたびに不安を飲み込んでただただテンションがあがっていくのがとても気持ちよかった。時間に余裕を持って家を出たが、気がつくと首都高をスズキワゴンRでかっ飛ばしていたのだった。

搬入口で機材をおろして三井ホールに入った。スタッフのみなさんがステージをつくってくれていて、しばらくするとメンバーにセッティングの声が徐々にかかっていった。スネアの具合がどうだ、とか、ベースはどのアンプが、どのDIが、と言い合っていて、そうそう、こんな風景だった、と懐かしがってみようとするのだけど、もうすでに何かが違う。まずライヴハウスじゃないっていうのもあるし、そうだとしても座席の間隔が違う。生配信もやるから関わる人も多い。「失われた半年を取り戻す」なんてハナから思っちゃいなかったけど、「こう変わったんだ」ともすぐには思えず、寂しいでも悲しいでもない感情が湧いた。立ち回りが難しいよ。

リハーサルで久しぶりのステージにビビってしまったのか何度も演奏している「視界良好」のDメロのコードが飛んだ。「何回も演奏してる曲なのに!」って笑って済ませたけど、更に緊張感が高まる結果になってしまった。リハーサルを終え、落ち着かないからと言って三越に行ってデパ地下を覗いた。とても美しい風景で、本当に来てよかった、と思えた。なんか差し入れでも、とヨックモックのシガール紅茶味を購入。さらにふらふらしていたら榮太樓の和菓子屋があった。梅ぼ志飴が大好きだったけど生菓子まであるなんて知らなかったから勢いで鰹節がかかった団子、中にみたらしが入った磯辺餅みたいなやつ、豆大福とか買って帰ってメンバーを若干引かせた。

三井ホールに戻るとちょうど開場したてぐらいでうすやまさんのDJが始まっていて、The Sundowners、The Groopがかかっていた。ローディーの秋山さんにステージ袖にスタンバイしていたギターを持ってきてもらって、忘れてしまいそうなコードのチェック。テンパってもすぐ戻ってこれますように。

うすやまさんのDJによる「くすりをたくさん」を背に受けて昼の部が始まり、大きな怪我もなく終了。舞台袖に引っ込んで「ドラムの椅子、もうちょっと高いのないかな」というやりとりを見守る。結果、高い椅子があったかどうかは知らない。すぐにシャワーを浴び、楽屋でしっとりと休みながらライヴを反芻する。序盤は硬かったけどだんだんとバンド自体が大きなグルーヴに飲み込まれていくような感覚があって、これはドキュメントだし、ライヴの醍醐味だな、と思えた。配信の音源担当の葛西さんと録音のチェック。バンドの演奏をPAの松田さんが整えたところにヴォーカルの回線を足して混ぜ込んでいく、というやり方だそう。とてもいい感じ。この日の音響チームはすごくて、PAはよくやってもらっているミツメとかのPAもやられている松田さん、モニターはYSIGとかでおなじみ、スウィート・リグレットも録音してくれた柳田さん、そして配信チームで葛西さんとばばちゃんが来てくれた。結構開場入りするまでどうしよう…、という不安が強かったけど音響面だけじゃなく集まったスタッフがバッチリにフォローしてくれて、大きな不安はなく本番のステージを迎えられたのは本当にありがたい…。

雑談しているとローディーの秋山さんから「あんたがたぐらいですよ、楽屋だろうが機材車だろうがそんなにおしゃべりしてるバンドは」と言われる。ふふふ。

昨年末で退職した元マネージャーがライヴを見に来てくれた。もう絶対返って来ないと思っていた「アパートの鍵貸します」のblu-rayと漫画が数冊返ってきた。blu-rayに至っては買い直していたのでびっくりした。久しぶりに会えてうれしかったし夏木マリのTシャツがいかしていた。

妙な偶然というのはあるものでうすやまさんが夏木マリさんの「ローマを見てから、死ね」とかけていて、本当に最高だった。そうなのよ!これなのよ!とステージに出ていく。昼の部よりリラックスしていた夜の部だけど配信はあるので妙な慣れなさがあって普段だったら終盤にやる「静かな夜がいい」のメンバー紹介のあとで普段なら「そして澤部渡です。今日はどうもありがとう」と言ってギター・ソロにいくのだけど、夜の部で「今日は楽しみましょう」と言ってしまって(ふふふ、何が楽しみましょうだよ!)と照れてしまった。

細かいミスはまあライヴだから仕方がないんだけど用意していたセットリストのアンコール最後の「ポップソング」で集中力が切れたのかコードは間違えるわ、口笛全くでないわで驚いた。これが36曲目なんだな、と。教習所で自動車事故の多くが家から出て5分か家まであと5分のときに起こります、と言われたことを思い出した。それでもやりきった充実感でステージをあとにすると、ダブルアンコールをいただき、「返信」を演奏した。

楽屋に戻って昼に買った榮太樓のおかしを食べたり、差し入れでいただいたお菓子を食べた。朝ごはん食べて以降は何もたべていなかったのでまるで水仙の造花のように胸に染み入る。

後片付けはスタッフのみなさんに全部任せて全力でぐったりした。流石に疲れた。でもここ1ヶ月の自転車の成果がでたのか、ある程度「もう動きたくねえ」の時間を過ごしたらまともに動けた。優介は「このままここに泊まって始発に帰りたい」と言っていたし佐久間さんは「(椅子に座りながら)このまま帰れねえかな」と言っていた。佐久間さんが今日は岡村ちゃんの「ターザンボーイ」聴きながら来た、と言っていてシンクロニシティ!!!

ろくに話もできていなかったうすやまさんと少しだけ話す。役職が変わった、と新しい名刺をもらう。最高。

撮影で来ていた大関さんに話し相手になって貰う代わりに家まで送る。帰り道も薄く岡村ちゃんをかけていた。ゼキさんをおろして岡村ちゃんを熱唱しながらハンドルを握っていたらどうしてもカップのそばが食べたくなり、セブンイレブンに寄った。ついでに光熱費やコロナ禍ゆえに滞納せざるを得なかった税金類も払った。総額で18万とレジが知らせる。椅子に座っていたら転がっていたし、普通の夜だったら膝から崩れ落ちていただろう。半年ぶりのライヴが終わったあとだったから、正気のままATMでその額をおろせたのだと思う。

先のせべちょべちょのどん兵衛を食べながら「さあ、これからどうすればいいんだろう」と正気に戻った。トランプを繰るC.C.バクスターとフラン・キューブリックのそれだ。実はケータリングででていたプルコギ丼も食べていたのでまったく食べる必要がなかったそばをたいらげ、その日3度目のシャワーを浴びながら座右の銘である「なんとかなる」に想いを馳せる。なるようにしかならない。幸い、ちょっとライヴが続くから、少しずつ気持ちを元に戻さないとね。

 

さあ、少し宣伝とお詫び。

当日、生配信もやったのですが、映像と音声に不備があったらしく、現在アーカイヴが見れない状態となっているそうです。それを直してからまたアーカイヴが公開されて、さらに本来だったらアーカイヴの公開は8日までの予定だったそうですが、週末までアーカイヴの期間も延びることになるそうです。詳しいことはカクバリズムに訊いてほしいんですけど、とにかくそんな感じ!チケットはここから買えます。

https://t.pia.jp/pia/artist/artists.do?artistsCd=B5190035

で、この日のライヴ、物販がいつもどおりの形で行えなかったのですが通販でお祭り騒ぎでございます。顔Teeが西村ツチカ氏×森敬太氏の手によりメガ進化!!!これはもはや澤部Tee。そして顔どんぶりが爆誕。一家にひとさらいかがっすか。

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