幻燈日記帳

認める・認めない

それからマーチ

妻が「ゆきちゃんどうかねえ」というので22時過ぎに母にLINEを送る。「この時間だから寝てると思うんだけど念のため、ご加減いかが?」みたいな内容。すぐに既読もつかず返信もないから眠っているんだろう、と思ったら0時を過ぎて母から返信がくる。22時過ぎに亡くなったそうだ。それでは、翌日お線香でも手向けに行きます、と返事。妻にも伝えてひとしきり泣く。「今頃は大好きなごはんもばくばく食べて、もちろん晩年できた変なイボも消えて、さらには6年前に動かなくなっちゃった後ろ足も動いて元気に走り回っているんだろうか」とか思ったらさらに泣けてきた。

葬儀屋に9時に電話するからゆきちゃんに線香あげるなら葬儀屋に持っていってもらう前じゃないと、と9時より前にアラームをかけるも目が覚めたら10時になってしまっていた。11時に出ることになったよ、という内容のLINEも来ていた。急いで支度をして部屋を出る。よく晴れている。

家につくとゆきちゃんはすっかりチンチンに冷たくなってしまっていた。葬儀屋さんがくるのかと思っていたが父が自分で霊園に連れていく、と言い出したらしく、車にゆきちゃんを乗せることになった。10年前におなじバセットハウンドのヨーゼフが死んだときは、葬儀屋さんが来て、そのまま段ボールでできたお棺に詰められて、それが今生の別れとなってしまった。それが父の中でひっかかっていたのだろうか。

霊園について段ボールのお棺に詰め替える。そうして思い出す。棺桶もそうなのだがやはり閉じる、という感覚がちょっとつらいのだった。しかもお棺と言えども段ボールでできているからとても日常にありふれたもののように感じてしまう。まるで荷物でも送るように段ボールを閉じて、ガムテープでも貼りそうになるところを棺掛けを垂らす。日常と非日常のスイッチングがなんとも絶妙で、難易度が高く、気持ちに整理がつかない。納骨堂のスピーカーからはもの悲しげな音楽が流れていた。

帰り道に父が「万世に行こう」というので高島通りの万世に行く。子供の頃に来た以来だろうから20年以上ぶりとかだと思う。とにかく母をねぎらう。6年間も下半身不随になってしまったゆきちゃんをなんともまっとうに正直に介護し続けたのだ。俺が全知全能の神さまだったなら今すぐ母の膝の痛みを取り除くのに、と思いながらハンバーグを神さまの気持ちでついばんだ。

家に帰りゆきちゃんがいない納戸を眺める。私が晴れやかな気持ちになるピースは足りている。それをどう並べればいいのかもわかっている。でもほんの少しうまくいかない。

 

帰り道、久しぶりに高田書房に寄った。新入荷のなかからジャケ買いした1枚の1曲目が素晴らしかった。The Light Companyというバンド。その1曲目はサイモン&ガーファンクルの曲だったそうで("ブックエンド"は聴いたことがなかったぜ)、いろいろ調べるのだが、そのバンド自体の情報があまり出てこない。ジャケットに貼られた値札($3.00)に"Kanesville Records"という店名も書いてあり、眺めていくうちにそれがとても愛おしく思えてGoogleMapに"Kanesville Records"と入れてみたら"Kanesville Kollectables"という店がヒットした。どうやらここのようだ。アイオワ州のカウンシル・ブラフスという街。ストリートヴューで街を流す。そして街について調べる。人口は6万人にも満たない。アート・ファーマーが生まれた街。2007年以降Googleのサーバーがある街。そうしてこんな素晴らしいテイクがどうして話題にあがらないんだろう、と調べていくと、誰かがアップしたYouTubeの動画にたどり着いた。その画像を見て驚いたのだが、多分ここで映っているレコードと私が今日買ったレコードは多分同じだ。値札だけなら、このThe Light Companyというバンドがアイオワ州のローカルバンドで、同じ店で大量に売られてた、ということも考えられる。しかし左側にできたシワがまったく一緒。実に奇妙な縁で嬉しい。この人が手放して私の手元に来たのだろうか。だからどうした、という話でもあるが、書き残しておきたい。

The Light Company - Punky's Dilemma - YouTube