幻燈日記帳

認める・認めない

さん回となえろ

26日

10時から胃の医者にかかるために早起きしてバスに乗る。平日の昼過ぎ、乗客はあまりいなく、景色を流すのにはうってつけの日だった。受付をすませて、待合室でもう何ヶ月読んでるんだ、赤毛のアンを読みながら待つ。しばらくすると名前を呼ばれて診察室に入る。すっかり良くなったわけではないのだがじわじわと良くなっている、と伝える。痩せなきゃね、と言われていたのにいろいろあって全く痩せられていないことだけが心に棘が刺さる。しかし刺さった棘はすぐに忘れてしまうのだ。

14時から事務所で打ち合わせがあったので吉祥寺に出る。早いけど移動して向こうで飯でもくおうか、と考えたのだけど井の頭線は停まっていたようで人だかりができていたので街をうろつく。時間をつぶすのが本当に下手だ。いくつか店を覗いたあと、電車は動き出していたので電車に乗る。文庫の続きを読み、駒場東大前で降りて菱田屋で昼食と洒落込んだ。

それでも1時間以上早く着いてしまっていたのでむやみにあるく。どこかに喫茶店はないものか。と検索してみると、手頃な店がない。高速を挟めばあるみたいだけど高速の向こう側に行くのは、少し面倒なのだ。結局30分ぐらい歩くだけ歩いてどの店に入る気持ちにもなれず、事務所のインターフォンを押すに至った。ああ。私は、私は。

 

27日

仕事で拝島に向かう。道は驚くほどまっすぐ、そして驚くほど片側一車線。30分遅刻。痛恨。無事に仕事は終わり、ずっと行ってみたかったシャーロック・ホームズでハンバーグを食べることもできた。食べたことのないとろっとろ、びっしゃびしゃの食感のハンバーグで最高。納豆のソースも最高。プレートに残った油と納豆のソースが俺を見つめていた。米じゃなくてパンにするべきだった。シャーロック・ホームズの店内はイギリス風味ではなく、超アメリカンだった。帰路で2件のハードオフチャンスをものにして、あまりにも最高のジャケットだったので「あぶない刑事」のサントラを800円で購入。妻の誕生日でもあったのでケーキを買って帰る。

 

28日 / 29日

翌日に迫ったNICE POP RADIOの収録のためにかなりの時間をかけて選曲をしていた。今回はギター特集。日記にはかいてなかったけど、空いた時間でコツコツやってきていて、近年では一番時間をかけて選曲したし、候補に入った曲数も膨大になっていた。なにより、自分自身がギターに向き合う、という過去にやらなかったことをやったため、かなり心に来た。しかしまとめて見ると、いつもの感じになったような気もして、なんとも無駄な時間を費やしてしまったのだろう、と悲嘆に暮れる。収録はもんもんとしながらだったので果たしてどうなることだろう、と思っていたのだが、さっき完パケデータ聴いたらいい回でした。ギタリストとしての私とは一体何なのだろう、ギターとは一体何なのだろう、という問だけが今は転がっている。

 

30日

夜中にダウ90000が栃木の大衆演劇場でライヴやる、という告知ツイートが流れてきて妻と目を丸くする。なぜ。一体何が起こっているのだ。そしてリンクを踏んだらこれはいかなくてはならないのでは、と決意を固める。大衆演劇は17年前に一度観ている。その時は美術部の合宿で行った宿(確かホテルニューおおるりじゃなかっただろうか)(後日追記:万葉亭だ!!!!)の夕食の会場で観たのだ。その時の異文化っぷりに我々は熱くなり、しばらくの間は出演していた子供が演じていた「船方さん」がアンセムと化すようなことも起きた。ともかく我々は翌日早起きして栃木に向かうことにした。

 

2月1日

車は順調に北上、定刻通りに船生かぶき村に着いた。建物の外見からとんでもないグルーヴが滲んでいる。そして劇場にあがって更に濃いグルーヴを受け取る。おにぎりと無愛想なからあげのパックと一緒に座席に案内される。周りを見渡してみるがダウ90000目当てで来たのは我々だけのようだった。とても濃い空間。ここでダウは一体なにを……。劇団駒三郎のプログラムが始まる。人情物の劇。驚いたのはとにかく劇のBGMの音量やマイクの音量が爆音だということ。しばらく経って私は妻からティッシュを受け取り、丸めて特に弱い右耳に詰めた。妻がよく「お宝鑑定団は音がでかいんだ」と言ってテレビのリモコンに手をかけている様子を何度も見たことがあったのだが、これもきっと同じ現象の器の上の出来事なのだろう。劇がクライマックスを迎え、ご婦人たちが涙に暮れる中、BGMがグンと大きくなる。Shazamしたら五木ひろしさんの「裏通り」という曲だった。面積考えたらそこらのクラブよりも大きい音量でかかっていて、この経験できただけでも栃木に来てよかった、と思えた。

その後、お客さん参加のカラオケコーナー(全員うまい)をはさみ、踊りのコーナーへ。あ、これリップシンク守谷日和さんの「表現」の中間だ、となり大変ぶちあがる。その中で劇団暁さんか劇団駒三郎さんのどちらかが演目に取り入れられていた「484のブルース」があまりにカッコよくシビレ散らす。グルーヴ演歌、とでも言えそうな内容でめまいがした。

484のブルース【歌、録り直しバージョン】/平田満(幸斉たけし) - YouTube

劇団の公演が終わり、始まったダウ90000はなんと新作コントだった。ここまでアウェイなダウもはじめてだろう、と思ったのだが、大衆演劇に寄せることなくやりきる8人はかっこよかったし、お客さんたちも暖かく迎え入れている様子が美しかった。すべての演目が終わり、劇団とダウのエンディングトークが気持ちよくはずんだところで客出しBGMとして「ダンシング・ヒーロー」がかかって、なんというかなにもかもがどうでも良くなった。大きいことも小さいことも悩むことがたくさんあって、人生の苦味を噛みしめる昨今、芝居がハネて「ダンシング・ヒーロー」さえかかっちゃえばすべてオッケーなのである。栃木の夕陽はそう教えてくれた。

レコード屋を一軒、見ていくことにしたのだけど、そこが空いているかどうかわからず、検索していくうちに移転したかも、という話になり、どうやら蕎麦屋の一部に構えているらしい、という怪情報を得る。実際電話してみると、実在していた。安くレコードがいっぱい買える、というよりは品揃えが変なところ抑えている感じで興味深った。嬉しい新入荷あります。来週のナイポレでかけますので是非。

帰り道、街灯ひとつない東北自動車道を走りながら2008年のフジロックを思い出したりしていた。付き合ったその年にふたりでSPARKSを観に行ったのだ。あれから15年が経つ。今ならきっとできないことをあの頃のふたりはやっていた。今から15年経った頃、栃木にダウ90000観に行くなんて今はきっとやれないね、とふたりは笑っているだろうか。