幻燈日記帳

認める・認めない

ミントのかざぐるま

18日

うまく整備工場と連携は取れたのだが私が動けない一日で父が動いていろいろやってくれた。助かる。

 

19日

整備工場から正式に軽自動車の訃報が入る。父親の乗っていた車を乗り回すクソ放蕩息子という構図ではあったのだが、なにせ24年そばにいたのだ。中学生の時に学校で突然高熱が出てぶっ倒れた時も母はこの車で迎えに来てくれたし、高校生の時に兄を呼び出して学校から借りたコントラバスを無理矢理積んだのもこの車だったし、今の妻と一緒にスパークスを観にフジロックを観に行ったのもこの車なわけだ。数々の現場にも行ったし「ずっとつづく」のMVにも登場している。ああなんて寂しいお別れ。そして車を買わなければならないのか。調子が悪かったこの数ヶ月、お別れの覚悟は少しずつできていたが、痛すぎる出費の覚悟はまだできていなかったようだ。気持ちが暗くなる。そして銀行の口座の残高を見て「人間向いてねえ」と独りごつ。

 

23日

Kaedeさんの生誕祭東京公演。父からグランビア(1996年のものだそうだ)を借りて多い楽器の数に対応、と思ったが、こちらから持っていく楽器はなく(新潟終わりで全部預けた)翌日がレコーディングだったため、事務所がすべて吸い上げてくれてわざわざ車で来る必要がなかったと気がついたのは終演後だった。演奏は今までで一番気持ちよかった。「サイクルズ」がお客さんの湧き方も含めてとても心に刻まれている。万感の思いで「いけない」を演奏した。

 

24日

ポニーキャニオンのスタジオで「SONGS」のカッティング確認。その後夜、レコーディング。疲労がぼんと爆発して終盤ほとんど眠ってしまった。クタクタで部屋に帰って粗大ゴミを捨てた。

 

25日

軽自動車の告別式。積みっぱなしだったあまりに多くの細々したものを回収。最後に「あの世でまた会おうな」と軽自動車に声をかけると整備士さんが「それぞれのパーツはまたリサイクルされますので、なんらかの形で戻ってきますよ」と言う。小粋なことを言うじゃんとも思ったが、思い切った別れにならなくて心の中にさらに大きく穴が開く。

 

27日

ミツメのライヴを観に行く。2012年の2月、シェルターで対バンした時から大ファンのバンドが一度休むというのだ。限られた関係者・友人のバンドマンには伝えられていたようで会場は半ば同窓会のような雰囲気さえあった。ライヴは本当によかった。いい演奏だった。選曲も最高。「会話」や「クラーク」、「幸せな話」といった選曲にも驚き、それにしても「エスパー」って本当にいい曲だよな、としみじみきた。終演後、みんなと話す。みんな晴れやかないい表情をしていた。まおくんに「みんな説得する夢見たんだって?メンバーよりバンドのこと思ってるよ」と笑われてしまった。そう、私はミツメの活動休止を知らされてからずっと考え込んでしまっていて、しまいにはある日、夢を見た。メンバーをひとりひとり訪ねて「さわべくんがそこまでいうんだったら僕たち休むのやめるよ」と言われたところで目が覚めたのだ。しかし晴れやかな気持ちになるいいライヴだった。「トニック・ラブ」のドラムが入ったあの瞬間だったり、「ミツメのテーマ」で3人がコーラスした時とかにつくづく「いいバンドだなあ」って強く思った。

活動休止の話を川辺くんから聞いて、吉田と3人で飯を食いに行った日、寂しくて、話している途中で突然泣きそうになった。どうにか涙を押さえつけたが、そのかわり、一瞬声が濁った。あの時泣き出しちゃっていたら、2人はどんな顔をしていただろう。あの日「でもね、続けるための活動休止だから」といってくれたのが嬉しかった。

 

28日

所沢でライヴ。ハイドパークフェスティバルで知り合った平松くん、Chihanaさんのユニット、エクスキュゼ・モワのライヴにゲスト参加。おなじくハイドパークでお世話になった恭子さん、一緒にステージに立ったペティブーカの奈歩さんにも久しぶりに会えて嬉しい。しかも河村さんからはThey Might Be Giantsのグッズのカタログを頂いた。90年代後半のものだ。リアルタイムであの頃に触れられてるのが羨ましくてたまらない。演奏は上々。

 

29日

ナイポレの収録を終え、妻と高崎にジルベルト・ジルを観に行く。いっぱい聴いてきたわけじゃないしどうしよ〜、ミツメのライヴと被ってたし、なんなら普通にチケットも完売しちゃってたし、でもこれを観ないと後悔しそうだな、と高崎まで足を伸ばす。高崎の駅で降りるのは初めてで少し気持ちが浮つく。駅から続く近代的な歩道を歩いて会場について写真を撮っていたらまおくんに遭遇。さらには夏目くん。なんと野中モモさんまで!嬉しい偶然に胸が熱くなる。ライヴはもちろん最高。音楽って最高。本当に見にきてよかった。あんまりこういうこといいたくないタイプなんだけど、いろんな得体の知れないパワーをもらった気がする。終演後、下手のプレイヤーが弾いていたベースがカッコよかったからメーカーを調べにステージの方まで向かう。スタッフの方がやさしくGianniniというメーカーのものだと教えてくれた。そうすると「勉強熱心だね」と声をかけられ「えへへ……」とかやりすごしていたらミックスナッツハウスの林くんだった。440で一緒に演奏した時以来だから5年ぶりとかかしら。いい音楽がいろんなものを引き寄せてくれたんだな……なんてさらにパワーを追加で受け取る。帰りはグリーン車でおべんとう食べながら帰る。