5月1日
虹の黄昏さんのライヴを見に行く。安定の野方区民ホール。ゲストは真空ジェシカのガクさんとこたけ正義感さん。川北さんが熱の中にあったため、急遽ガクさんがピンだったけど非常に濃厚、しつこいけど上品という絶妙な味わい。いいイヴェントだった。
4日
おとぎ話とツーマン。ジャーマネアン・ドゥ氏電撃退職後初のライヴで心細い。おとぎ話は身近な人は本当にたくさんいるのにすれ違うばかりでようやくちゃんと共演できた。音デカくてカッコいいってすごく大切なことなんだな、なんて思う。スカートのスリーピースは弾き語りよりも剥き出しになるような感じがする。ゴールデンウィークということもあり、地方から何人かお客さんが来てくれた、と終演後知る。スカートは最近如実に人気がないと感じていたからとても嬉しかった。
5日
打ち合わせを終え、この日はKaedeさんの個人練習にあてる、と前から決めていた。優介に誘われてKaedeさんのバックバンドを一緒に務めることになったからだった。まず、譜面がどこにあるかを探さなければならない。車のなか、倉庫の書類入れのなか、あらゆるところを探し、ようやく見つかった。テレビの横にあるなんて誰がわかるのよ。普通に日が暮れていた。曲を聴きながら譜面を読むだけでこの日は終わった。むう。
某日
テレビの収録。今をときめくCANDY TUNEのおふたりと今をときめくラランドニシダさんと今をときめく柴田聡子さんと一緒。ホストの3人を差し置いて勝手に盛り上がる瞬間があって申し訳ないやら楽しいやら。
8日
工藤祐次郎さんとツーマン。ジャーマネA氏の電撃退職により現場は揺れに揺れているのでいつもより多くスタッフが来て、社長が来るのはわかるんだけどローディの秋山さんまで来てなんか笑ってしまった。こないだの7th Floorのライヴで用意しておきながらもなんとなくやる流れになれなかった「こんな感じ」を演奏できてよかった。
9日
優介と新潟入り。Kaedeさん、雪田さんにも久しぶりに会えて嬉しい。曲は久しぶりに演奏する曲や、初めて演奏する曲が混ざっていて不安なところもあったけど、そういうところはなんとかリハーサルでつぶせた。リハーサルを終えて雪田さんとご飯に行く。なにを食べてもおいしく、木梨憲武さん扮するペレのサインが色紙で飾ってあって驚いた。過去、何度か見たことがあったけど色紙の例は初めてだったのだ。特に印象に残ったのがタレカツ丼で、かかるタレは最小限、でもそれがなんとも絶妙な塩梅。いいいちにち。
10日
ライヴ会場である関川村は渡辺邸を目指す。その道中、クマさんがおすすめだというお店による。到着すると行列ができていた。飾られている食品サンプルがどれもまぶしく見え、迷っていると優介が後ろに並んだ地元の方におすすめは何かと訊ねた。「シュウマイは名物だけど、私は餃子だね、日本一の餃子だと思うよ」というのでそれぞれのオーダーに加え、シュウマイも餃子もオーダー。シュウマイと餃子のうまさとデカさにたじろいだが昼食にして腹爆発寸前まで自身を追い込んだ。渡辺邸に無事入った頃、かえぽがポッポ焼きを差し入れてくれたのだが、ライヴが終わるまで手がつけられないほどの満腹感だった。ポッポ焼きといえばちちゃこい日記という漫画で出てきた覚えがあり、サワミソノさんはお元気だろうか、とかゼキさんの顔を思い浮かべるなどする。
渡辺邸は由緒ある建物で重要文化財にも指定されている。豪商の豪邸で、楽屋として通された部屋はやたらとカメムシがいて二人で怯えた。演奏もミスもほぼなし、素晴らしい雰囲気で終了。本当に思い出深い演奏になった気がする。語弊がありそうだけど、強烈だった。Kaedeさんがセットリストにスカートの古い曲を選んでくれたのもうれしかった。新幹線で帰京。つくづくいいライヴだった。優介とふたりで演奏旅行なんて2017年の蒜山でのライヴ以来だ。
11日
昼、ナイポレの収録をして荻窪のルミネに向かう。近すぎて逆に遅刻した。すごい人が観にきてくれていろいろ励みになる。それと同時にスカート聴いてるけど「夜にライヴハウスに行く」という選択が取れない人の多さも感じた。うーむ、どうしたもんか。演奏もここからしばらく続く「スペシャル」を主軸においたライヴの一発目としては上出来。嬉しい出発。最高。
12日
謎収録。本当に変だった。早く言いたい。何ヶ月か経って私に対する「なにそれ」っていう案件があったら多分この日撮影されたものです。
13日
万感の思いで迎えるフラゲ日。とにかく落ち着かない。エゴサばっかりするけどそれでも気が紛れてくれない。「スペシャル」はバンドの力と私の居場所のなさで構成されている。居場所なんてもともとないんだ、悲嘆に暮れるなよ、と君が言うのもわかる。でも居場所がなかったから頑張って作った、という自負もあるのだ。居心地の悪さを私が今歌う、というのが今のテーマなのかもしれない。だから「地下鉄の揺れるリズムで」で「これ以上悲しくならないために」と歌ったのに、「ひとつ欠けただけ」で「今よりも悪くならないために」と歌えたのだ。書いた時から重複している、と気づいていたけれど「今はこう歌う他ない」と思ってしまった。これ以上、今よりも、と言い聞かせて生きていく。私にとって「スペシャル」とは今の社会や日々の暮らし、あまりにも不甲斐ない自分自身に対する怒りと無力さに満ちたアルバムであるのだけど、でもそれをやはりよしとはしない、という宣言を持ったアルバムでもある。ひとりでも多くの人が聴いて気に入ってくれることを願うばかり。
夜はココナッツでインストアライヴ。近すぎて逆に遅刻したら、店内はもう満杯。機材を出しながら「どうしましょう……」なんて話す。「ふた回しにする?」「それだと遅くなりすぎちゃう?」「一回だけにしてインスタライヴで生中継する?」だなんてやりとりをして、来ていたお客さんにも意見を伺うと、やはりふた回しの方が良さそう、インスタライヴもやっちゃおう、ということになり、急遽ふた回しが決定。ありがたい。普段、ココナッツのインストアライヴは直前の発表が多かった。でも今回は私がナーヴァスになっていたこともあり、1週間前から告知を始めていたのだ。もうスカートは世間的な旬はとっくに過ぎていて、今はもういて当たり前、いつでも観れるバンド、ぐらいに思われている、という自覚がある。だからこそ焦っていたし、もう見向きもしてくれないんじゃないか、なんて思ってしまっていた。ところがどうでしょう、たくさんの方が観にきてくれて最高でした。この日を思い出せばもうちょっとやれます。アーカイヴこちら。
Instagram (一部)
Instagram video by 澤部渡 • May 13, 2025 at 6:16 AM (二部)
14日
渋谷のタワーでインストア。過去にやったことがないK-POPフロアのレジの奥に設置されたイベントスペースでのインストア。会議室みたいな雰囲気で本当に不思議で不気味だった。インストアといえばCDやレコードに囲まれてやるのが通例だったはずなのに、壁と人しか見えなかった。昨日の熱狂とは違ったものがあって心をどう置くべきかに時間を費やしてしまったが、サイン会になればそんなことはどうでも良くなった。多くの方が期待してくれて集まってくれたのだ、なんて恵まれたミュージシャン人生。それでもなにか気持ちの置き所が難しい。
15日
MVの撮影。ゼキさん渾身のワンカット作品。部屋のエレピアンを撮影で使うことにしたため部屋の生態系が崩れる。おしまいだ。
撮影の合間に口座を見てみると還付金の入金がやっとあって妻にスクショを送る。日々の暮らしにただただ感謝。こんなに還付金が嬉しかったことはない。なぜなら2ヶ月待ったから。なんで二ヶ月もかかったんだ……
撮影は無事に終わり、ゼキさんとボーイと3人で寿司を食って軽い打ち上げとした。
16日
京都大阪キャンペーン。NU茶屋町のタワーでインストアだったのだけど、お店のことをほとんど何も覚えていなかった。一度行った場所は絶対に覚えていると過信していたからこそ打ちのめされる。そして前回来た時は「20/20」のキャンペーンだったんだった、と思い出した。メジャーデビューのプレッシャーから心身ともに変になっていた時期で、ツアーの最終リハーサルは床に突っ伏していたし、やっと演奏できると思ったら椅子に座ってギターを弾くばかりだった。私はその時のプロモーションの広島で日本酒なら飲めると知ったのであった。しかしこうも記憶からごっそりと抜け落ちていると本当に気味が悪い。今はあらゆるものが落ち着いて、なんというか噛み締めながら演奏できたし、噛み締めながらサインもした。人が集まってくれて、CDを買ってくれるって本当にすごいことだわよ。
17日
「多分いけないと思うけど昼間にお笑いライヴのチケット取りました」と馬鹿正直にカレンダーに書いておいたらキャンペーンは当日戻りにしてくれて、無事観劇。Dr.ハインリッヒとキュウと街裏ぴんくさんのスリーマン。なんというスリーマン。佇まいがとにかく美しい。キュウさんは本当にすごい。日本語の教科書とかに載せた方がいい。
大橋裕之さんから誘われて渋谷でDJをして、部屋に戻りラジオの生放送にリモートで出演して慌ただしく一日が終わった。DJの現場で久しぶりにEMCの江本くんに会えたのが嬉しかった。
18日
ダウ90000の「ロマンス」を招待していただいて観る。素晴らしかった。どんな感想を言ってもネタバレになりそうで、終演後みんなで写真を撮ったのにあげられないでいる。何周もしてこういえばネタバレにならない、という言い方をひと月の間、考え続けている。観れる人は観た方がいい。
急いで吉祥寺のスタジオでスカートのリハーサル。以前佐久間さんと決めたセットリストを実際にバンドで叩いて行って構成をさらに良くしていく、という作業を(30分遅刻してしまったから)ほぼ休憩なしで5時間半みっちり。次のツアー、多分めちゃくちゃいいぞ。
某日
ツアーの仕込みや取材をやったりしながらも仕事としてはちょっとずつ落ち着いていく。生態系が崩れた部屋をなんとか戻そうと一日足掻いたがどうにもならなかった。
森川さんとふたりでコード感や譜面上での問題がないか、などを確認するため二度ほどスタジオに入ってからバンドで1度入った。これがまたべらぼうに良くて「スペシャル」を演奏しているときの佐久間さんがキース・ムーンに見えた。今回のツアーで息切れだけは絶対にしてはならない、とジム通いに熱が入る。いい循環。
24日
昼間ナイポレの収録。スパークス特集。直前まであーだこーだやった結果、収録の開始は一時間押した。その分より濃厚な内容にはなったけど、それにしてもまさかのご本人がコメントに登場。あまりの事態に冷静を装うのに必死になっていた時間があった。
夜は5月末に収録したAmazon Music Studioでのライヴが放映された。Tik Tokでも配信されるというから見てみると10人ぐらいしか観てなくてそれがよかった。反応も上々で嬉しい。アルバムのスカートと、この日のスカートと、ツアーのスカートはまたそれぞれ違う表情を持っているような気がする。この日記を書いている段階でツアーも弾き語りと東京だけだけど、よかったら気にしてください。
26日
発売から1週間経つ。好評のような気がする。でもそれはいつもそうだ。もうずーっとそう。私のこの特別な手応えが何かに直結するようなことはあるのだろうか。試しにSpotifyやAmazon Musicの再生回数を見てみる。アップされたばかりのMVに張り付いてみる。数字が可視化されるのは嬉しいのだけど、どこか噛み応えがないのだ。ラジオの帰り道に新宿のタワレコに寄った。展開されているその様子をこの目で見たかった。エレベータを降りて店内をうろうろしてみる。この規模ならここだろう、というところに展開がなく、もう終わってしまったんだ、残念だ、もっと早く来るべきだった、と店内を歩いていると、レジ前に大きな展開が残っていた。その光景を見て説明しきれない何かがともる。「CDを買って欲しい」。あえて言語化するならばそういうことだ。スカートはサブスクの回数が回るバンドでも、MVがバズって再生回数があがるバンドでもなかった。2019年以降じわじわ続けてきた人体実験によってそれが証明されてしまったのだ。それでもカクバリズムもポニーキャニオンも新しくレコード作らせてくれている。こんな環境を作ってくれた方々にどうやってなにを返せるんだろうか、それは少し考えたらすぐに答えが出た。ひとつはこれからもいい曲を作る、そしてもうひとつは「CD・買ってくれ」と口に出して言うこと。もちろん利益の話もあるのよ。CDの利益があれば次を作れる。サブスクはスカートのやり方だと収益を期待するのが難しい。でもいま「CD・買ってくれ」というのは、やはりものとしての面だ。「いいアルバムができた」というのはポップ・アートとしての側面を多分に含む。触ることができて、紙の匂いがして、ピカピカなディスクを手に取る。手で触れない、目で見れない、匂いもしないはずの音楽があなたのそばにあった確かな証拠をぜひ。
31日
新ジャーマネのI氏と大阪に向かう。長居公園でライヴ。ANATAKIKOUやYeYeさん、DENIMSもいるという超いい空間だった。芝生で聴くANATAKIKOUは信じられないぐらいよかった。「アーチ越えて」を生で聴けて大感激。自分のライヴは途中、向かいのスタジアムでやってたサッカーの応援にかき消される瞬間があって、正直びっくりしたんだけどすごくいい体験だった。これは絶対にライヴハウスでは体験できない。「いろんな人がいろんな予定でそこにいる」という公園の本質を見た気がした。京都に移動してインディアゲートでビリヤニを食べる。あまりにうまい。衝撃。それからナイポレの収録。ディレクターY氏にI氏を紹介してほぼ最終で帰京。怒涛の5月が終わり、怒涛の6月が始まる。人生である。人生でしかない。