幻燈日記帳

認める・認めない

母校GIGによせて



9年前のライヴ録音を何日か放置してしまった炊飯ジャーをあける気持ちで聴いてみる。2009年11月1日、場所は昭和音楽大学。イベントの屋号は「一流音大生」だった。大学1年生の時に同級生たちが学園祭でおでん屋をやる、という話を受けて「そのおでん屋に参加するなんていつ言ったっけか」とお茶を濁して以来、学園祭の期間中は学校に近寄りさえしなかった(と思うんだけど記憶は曖昧だ)。そんな学園祭のステージに4年生になった時、下級生、同級生、先輩に手伝ってもらって立つことになった。僕が家でゴロゴロしていた頃、サトちゃんはどんな気持ちでおでんを売ったのだろうか。ともかく、その時の録音だ。レコーダーの設定が適当だったこともあって音質的には記録程度のものだけど、当時の息遣いだけは伝わる。遠い昔を思い出す。大学生だった頃の自分は、青臭くて〜だとか、世間知らずで〜だとか、まだまだどうやって行動すればいいのかわからなくて〜だとか、言おうと思えばいくらでも言えてしまうだろう。ほうぼうで当時を振り返り「友達がいなくて」だなんて言っていた。馴染めなかったのは事実だけど、大事な友だちもいた。先輩たちは優しくしてくれた。理解してくれた先生もたくさんいた。白髪の紳士、高田先生のポピュラー音楽概論の授業で「みなさんの中でビートルズの「イエスタデイ」を知っている人はいますか?」と訊くと教室の全員の手が挙がった。「ではビートルズの「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」という曲を知っている人はいますか?」と訊くとほとんど手は挙がらなかった。僕だけだったかもしれない。高田先生は不思議そうな顔をするわけでも、絶望したような顔をするわけでもなく「では今日は予定を変えてビートルズの「サージェント・ペパーズ」というアルバムを聴いてみましょうか」と言った。まどろむ教室の中で音楽が鳴り響いていた頃を思い出す。高田先生からはハーブ・アルパートDJ KRUSHを借りたりした。あれが2006年の秋の頃だったはずだ。その翌年には在学中にいくつかのライヴを手伝ってもらった森先生とも出会った。トッシュ先生の授業も2年からだったはず。アレンジのおかもと先生は3年生の時。大好きな「幻想王国のコレクターズ」やMIDI時代のエンケンさんを録音されていた湊監督も3年から。牧村さんも2年の末には出会っていたけど、授業に出たりするようになったのは3年になってからだったはず。そして3年生になった頃に優介や今井くんみたいな後輩たちが入ってくれて本当に生きるのが楽になった、と思っていたはずなのに、そのライヴ録音を振り返るとそれでもエネルギーが内へ内へ向かっていたことに気がついた。ちょっとした歌の端々から漏れるヒリついた感じ。メロディからはみ出して声が漏れる瞬間。過ぎたことだと飲み込めるようになってきたけど、それらは僕がなくしてしまったものかもしれない。どうにもできなくて、音楽の外にそれらが放出されていく危うさみたいなものが確かにあったんだろう。音大に居ながら、その道が見えなかった。体と頭と心がバラバラになりそうな人間をどうこうする施設ではないのだから、当たり前だ。それでも22歳だった僕はもがいてもがいて卒業制作のような気持ちで「エス・オー・エス」というレコードを作り上げた。あれから8年、10/26に母校でライヴをする。あれからたくさんのレコードを出した。つまりはレパートリーも増えた。ライヴを何本もやってきた。それに体と頭と心をどう動かせばいいのか、あの頃よりは少しは分かっていると思う。10/26は昔の曲もやります。それはひとりだったり、森先生とだったり、チェロの方も来てくれるのでもちろん「ハル」とかやります。でも森先生とは最近の曲をふたりでやったりもするつもりです。そしてバンド本隊も登場して、現在のスカートを見てもらえたら、と。18:30と開演が早くてすみません。チケットの詳細はこちらから。https://t.pia.jp/pia/ticketInformation.do?eventCd=1844060&rlsCd=001&lotRlsCd=
僕が昭和音楽大学で学んだことは楽器の技術や、アレンジや、プログラミング、曲の作り方や、エンジニアリングとかだけではなかった。というか挙げたものは取りこぼしてしまったことばかりだ!それが見せられる夜にしたいです。
最後にゴウスツでうたってくれた藤岩聡子さんことサトちゃんの卒業制作を紹介します。https://soundcloud.com/sfpl/nuno この曲はドラム、ベース、ギターを僕が担当していて、マンドリン今井師匠。ローズはサトちゃん。トランペットは誰だったかな。プロデュースは牧村さん。すでに録音していた硬質なドラムを牧村さんからの提案でこの曲はドラムをブラシで叩くのはどうかな、なんて今の形に落ち着いたのがとても印象に残っています。