幻燈日記帳

認める・認めない

さしみず同盟

16日

ムーンライダーズのイヴェントに参加。80年代を中心としたトークと数曲ライヴ。私は翌日が命日だったかしぶちさんの「二十世紀鋼鉄の男」と「狂ったバカンス」をセレクト。大袈裟にいうと博文さんが選んだ「ウルフはウルフ」がなんかすごい切れ味になっていて演奏していて腰を抜かしそうになる。ムーンライダーズって本当にすごい。底がしれない。

 

18日-20日

ムーンライダーズのリハーサル。最初のリハーサルの頃は本当に緊張しすぎて自律神経おかしくなっていたけどようやく体が慣れてきたのか、ここ最近のリハーサルは変にならない。ひとつの進歩だろうか。「ロシアンレゲエ」をこれから合わせようという時に、各々音を出していたら博文さんが笑いながら「懐かしすぎて泣いちゃうかもしれない」と言っていたのがとても印象に残っている。

20日の夜、リハーサルが早く終わったのでシンリズムくんが招待してくれたKIRINJIのライヴを観にいく。遅刻しそうだったけどなんとか一曲目に間に合った。リズムくんがサポートで参加しているのが本当に誇らしい。そしてなんて素晴らしいバンド。あれだけ上手いメンバー集めて全くサーカスにならず、ただただ音楽であり、歌であり、言葉である、という事実に打ち震え胸が熱くなった。アンコールで「千年紀末に降る雪は」が演奏されて驚いた。クリスマスも近かったから「クリスマスソングをなにか」は聴けるかな〜とか思っていたらこれだ。(多くある解釈だろうからちょっと恥ずかしいんだけど)おそらく第三者の視点から次の1000年後か、はたまたそのさらに1000年後か、形骸化したサンタクロースの孤独が描かれていくのだが、後半、突然目線が切り替わ(ったように私は捉えている)り「知らない街のホテルで静かに食事」と歌われる。あの圧倒的な描写。ただそれだけの描写である。でもその描写のかなしさと言ったら。この日の演奏は、レコードの中からその孤独が目の前に飛び出してきたように思えるほどで、涙が溢れた。帰り道、「千年紀末に降る雪は」を思い出して時々涙が出た。これは数日続いた。

 

21日

作曲。

 

22日

締切当日、息も絶え絶え提出。

 

23日

22日に提出としたのは聞こえはいいかもしれないが、実際は23日に日付が変わって提出している。デモを清書するにあたって聞き返すと、いい曲なんだけど果たして作品にあっているかどうか怪しくなってきてもう1曲作ることにした。真夜中にまたスタジオに向かう。自分の中に斉藤哲夫さんが降りてこないか、と車を停めてギターを背負ってスタジオへ続く道、誰も歩いていない道を歩きながら「ねえ岡田さん助けてくれヨォ」と呟き、「バイバイ・グッドバイ・サラバイ」のピアノに想いを馳せた。思った通りのものにはならなかったがいい曲はかけた。

 

24日

2曲分のデモを先方に送って反応を見ることに。束の間肩の荷がおりて心の底からM1を楽しんだ。ママタルトは最高のものを見せてくれたし、トム・ブラウンはこれ以上続いたらおかしくなっちゃう、と向こう側に突き落とされた。笑いすぎて頭が曖昧になっていってそこにさらに追い打ちをかけるようにわからなくなっていく、あの時間の素晴らしさよ。本戦もみんな面白かった。みんなおもしろかったからこそ真空ジェシカの5位も悔やまれる。あれだけ面白いのに点数取れないの?と思っていた1年前や2年前とはなにかが少し違う。それがいいことなのか、どこかボタンを掛け違えてしまったような感覚なのか自分ではまだ判断がついていない。

 

25日

ムーンライダーズ最終リハーサル。いままで4日まとめてガッとはいるのがライダーズのリハの通例だったが今回は3日+1日と飛び石でのリハ日程となった。通しリハぐらいの予定がまた新しいアイデアが投入されて変わって行くことになった。この渦巻く感じ、たまらない。

 

26日

打ち合わせ。納期を逆算して行くと第一デモ提出日は1/3が適切ということがわかり「ワオ!」という。

 

27日

ムーンライダーズ本番。「9月の海はクラゲの海」「くれない埠頭」は万感の思いで演奏。クラゲの間奏の良明さんのギターから佐藤優介のソロ、というのがあまりに素晴らしすぎて舞台から降りてすぐ優介に「あのソロ最高だった」と興奮気味に声かけてしまった。金剛地さんが観に来てくれて終演後の楽屋に来てもらった。「前半歌いっぱなしで後半泣きっぱなし」と言ってくれて本当に嬉しい。義理の母も観に来てくれてある種の親孝行の二枚抜きが達成される。

 

28日

NICE POP RADIO収録。テーマは「反・お屠蘇気分」。ここ数年、金曜日が正月過ぎて逆に避けていた悲しい曲や暗い曲、正月からこのような曲を聴かせてくれるな、といわれても仕方ないような曲をかける特集。悲し過ぎて自分でも途中で飲み込まれそうになった。

 

30日

シアターマーキュリーにお笑いのライヴを観に新宿へ行った。年末の新宿はとても混雑している。伊勢丹に寄って人並みをかき分ける。全ての人に故郷があるのだ、当たり前のことなのに不思議な気持ちになった。仙太郎で和菓子をいくつか買ってから劇場に向かう。道中、あらゆるレストランに行列ができていた。ライヴは真空ジェシカもトム・ブラウンもダウ90000も素晴らしかった。いい劇場納めになった。マネージャーA氏も観に来ていてらんぶるに入って雑談。

 

31日

急遽松本家で年越し。美術部で比較的集まりに参加してくれる先輩もスノーボードに行ってるらしく妻と松本家での静かな年越し。桃鉄ぷよぷよブロックスでいい滑り出し。

 

1日

仮眠をとり、松本家の長男氏も連れてお参りへ。そこからしばらく歩いて大きな公園に出る。のどかな日だ。長男氏はお店やさんごっこ。石を買うために石を支払った。おみくじは大吉。たべっこどうぶつの一番くじではいいなーとおもったプレートも当たった。素晴らしい滑り出し!2024年やれる。松本くんの息子氏に触れ合ったあたりから自分に子供がいたらどうなるんだろう、なんて想いを巡らせる。生活とは、社会とは。夕方ぐらいに松本家を出て部屋に帰って地震を知る。すぐには受け止めきれず妻ともども部屋で眠ってしまった。真夜中に目を覚まして枕元の携帯を探るようにおそるおそるニュースをいくつか見る。SNSからは少し距離を置かないと心が壊れそうになる、とわかっていながらスクロールしてしまう。3.11の時はこれとニュースの見過ぎでおかしくなった。どうしても冷静でいられないからしばらくリストだけを見ることにした。

 

2日

実家に顔を出す。母方・父方両チームの親戚揃い踏みで新年の挨拶を済ませた。母方のいとこたちは会うのも久しぶりでえっKくんっていくつになったんですか?なんて訊く。子供の頃はみんながいくつかなんて考えたこともなかったのだ。年齢を皮切りに少しずつそれぞれの生活の輪郭がくっきりしていく。PSY・Sが好きだったS姉えにはいまプロデューサーがやってたバンドやってるんですよ、なんて話した。

親戚が帰った後の実家でテレビを観ていると少しずつ地震の被害の全容が明らかになっているようで慌ててチャンネルを変えたりした。このだんだん見えてくるその感じがとても怖い。そうこうしてたら今度は飛行機が燃えていてまた気持ちが暗くなる。人は脱出したらしい、という情報を得たが乗務員は?帰省先の実家から持たされていたお土産は?座席のポケットに入れっぱなしになっていた携帯電話は?貨物室のペットは?と次々に浮かんでは消える。

部屋に帰って明日に迫ったデモ提出に向けて作曲しなければと考えを巡らせていたらナイポレディレクターY氏から連絡が入る。反・お屠蘇気分は適切じゃないかもしれない、と私もわかっていたのですぐに再収録に同意して作曲は取りやめ。スタッフにも連絡を入れて新しく選曲を始めた。コロナ禍突入したての頃も思ったことだけど、結局音楽聴いて胸が騒ぐような瞬間が大切だ。いろんな悲しみの表し方がある。私に何ができるのか。出来ないことの方があまりに多くて悲しくなるので考えながら考えないようにして、私は私の仕事で世界を美しくするしかない。半分冗談で半分嘘だけど本気なのだ。素敵な音楽を電波に乗せることだってかなしみの表明のひとつだ。ちなみに反お屠蘇気分の一曲目はジョン・レノンの「マザー」でした。

 

Mother - Remastered 2010 ‑ 曲・歌詞:ジョン・レノン | Spotify

 

3日

日付を跨いで最近買ったレコードを片っ端から聴いていく。なんとかんく積んでいたものも含めてかなりの数を聞いた。その中でマリ・ウィルソン、トット・テイラー、ロックパイルが強烈に胸に響く。収録は無事終えた。録り直して多分よかった。反・お屠蘇気分は平和だからできたんだ、なんて思いたくないが、なにかに冷や水をぶっかける気概で望んでいたのは事実。収録中、いろんな考えが頭をよぎって、最後の最後、言葉にした後で今の言い方は今の自分にとってあまりしっくりこない言い回しがひとつあった。言い直そうかと思ったけど、ふるいの網目に残ってしまったものだと捉え、それは残してしまった方がいいと判断する。

 

4日

作曲。夕方部屋を出て歩いてスタジオまで行く。電線が風で揺れているだけで身構える。SNSを遮断する前に見てしまった動画では、神社にお参りしている時にあの大きな地震が来て灯籠は揺れ動くし、奥にいた男性は立っていられなくなってしまったようだった。身構えたところで実際には風で電線が揺れているんだな、とも頭でわかっている。でもあの一瞬だけ見た映像が離れない。暮れていく街。スタジオに着いたが全く進まない。漫画読んでギター握ってピアノ弾いたが成果はあがらず。