幻燈日記帳

スカート・澤部渡のせつないまいにち

縫い断つ日々



早い時間に起きて散髪へ行く。外観へのこだわりとは無縁の生活なのにも関わらず最近ライヴ会場で知り合った美容師さん、横田さんに切ってもらうために原宿へ。電車をいくつか乗り継いで向かった。その前日に作った新しい曲を聴きながら口を歪めていたらあっという間に着いてしまっていた。これまでありのままを続けてきた頭髪にはじめて色気が加わることになるかもしれない。自然と心が沸き立つ。「パーマを当てたりとかはいいの?こういう感じだよ」と言われ動きをいくつか提示されるも鏡の中にいる自分は太りちらしたしがないシンガーソングライター、という事実を思い出し、「へへへ」と奇妙な薄ら笑いを浮かべるばかりだった。「迷わなかった?」なんて横田さんは言いながら鏡の中の鋏は重くなりすぎた髪を少しずつ振り払っていく。コミティアで売ってたあらごんさんの冴えない地味で眼鏡のおんなのこが原宿に髪を切りに行く話があったけど、それと自分は今まったく同じ状況なんだ、と気づいた途端、気恥ずかしさもあったが、すぐ冷静になり、29歳としてはまったく問題ない行為だ、と再び鋏の先を見つめた。仕上がりは自分の薄くなり始めた頭にどういう髪型がいいか、というのを話し合いながらの散髪だったので、個人的には今までで一番!といえるぐらいいい頭髪になった気がする。もちろん薄くなり始めた事は解決しない。晴れやかな気持ちで外に出ると風が吹いた。軽くなった襟足を実感して足取りも軽くなった。
池袋に向かい喫茶店に入る。昨日書いた曲に歌詞はつかないものか、とアイデアを紙に走らせていくのだが、結局まとまらず。そのままココナッツディスクへ納品に向かった。現店長の中川くんとは中高以来の同志だ。中川くんがココナッツディスクでバイトを始めなかったらあんなに円滑に「エス・オー・エス」がココナッツディスクの店頭に並ぶこともなかったかもしれない。いや、ココナッツにはもうひとつ大いなる偶然があるのだけど、それはまたいつか。近況を話して「もうすぐコレクターズ武道館だね」と話し合って中川くんが僕の大好きな"幻想王国のコレクターズ"をかけてしばらくしたらコレクターズのギタリスト、古市コータローさんがたまたま来店。お会いするのははじめてなのでおろおろしているとコータローさんは新入荷のコーナーをあらい「おっ、これ持ってる?」と古井戸の"酔醒"というレコードをひょいっと出した。「いや、持ってないです」「これ、最高だよ」と即購入。コレクターズと何かと縁(かいつまむと幼少期から通ったレコード屋がコレクターズをとても推していたこと、シンバルズ界隈に出入りさせてもらってますということ、大学の先生が幻想王国のエンジニアだったということ)があるので話したいことがあまりにありすぎるのと軽いパニック状態になって、どういう話をしたかは思い出せても前後関係がかなりあやふや。コータローさん去りし後、中川くんとずっと「こんなことあるんだね」と話していた。
その後店内を見て回り何枚かレコードを物色。Dennis Lambertという人の"Bags & Things"というレコードのジャケットが目を引いた。視聴すると数秒で針をあげてしまった。これは家でしっかり聴こう。
ココ池を後にして中野で恋人、友人で待ち合わせ。テレビマンをしている友人がおすすめする芸人、レオちゃんの単独公演。日記ではいろいろはしょっているけど喫茶店をでて以降たちっぱなしだったことと、レオちゃんのやさしい声質も手伝ってすこしうとうとしてしまった場面もあったのだけどめちゃくちゃおもしろかった。絶対伝わらないんだけど「食人族に捉えられ儀式的なもの始まったら儀式のための歌が中島みゆきの糸」というものなど、発想のヒントを抱えて友人、恋人と晩飯を食らった。同い年、それこそ中川くんと同じ中高の友人なので、30歳を前にした人間特有の焦りを共有し合い、帰路についた。


今日は昨日作った曲を少し作り直す作業。その再構成、デモの録音に半日費やし、作業が終わり昨日買ったレコードを聴いていた。コータローさんに薦めてもらった古井戸は想像していた印象と違う部分が素晴らしくて、こんなにモダンなものだったとは!冬のうちに聴けてよかった。コータローさんに感謝です。そしてもう1枚、Dennis Lambertの"Bags & Things"を聴くんだけどこれがまた素晴らしかった。全然関係ないし、メロディが似てる、といかそういう話ではないのに「冬のある日」と始まるあの歌を思い出していた。