幻燈日記帳

認める・認めない

蛇腹街道

1日

OPULENCEを観に行く前に大きいサイズの洋服店をたずねる。あったかい外套はボロボロのしかないのだ。今日もそのボロボロのコートを着て街へ出ている。2つのフロアーを見て回ったのだが悪くはないよね、と思える程度でいいな、と思えるものがなかった。妥協してこれなら着てもいいかな、というものもあって、試着して鏡に向かったのだが、鏡の中の私は寂しそうな顔をしていた。どこにも行けないこの虚しさ。

その虚しさをOPULENCEが吹き飛ばしてくれるよね、と序盤はめちゃくちゃ楽しんで見ていたのだけどインターバルを挟んだ後半、出演者がプレイしている曲で、低音がエグい曲が3曲続いて、これ以上いたら具合悪くなってしまう、と判断して一度ロビーに出る。誰もいないロビーだ。低音が体に回ってしまっていたこともあったのか、がらんとしたロビーは一度も来たことがない場所に見えて恐ろしくなってしまった。居場所も失ってしまったような気がして心に穴があいてしまいそうだ、私はどうしたらいいんだ、と思っていたら救いの手が伸びてきた。扉を隔てた向こう側のフロアからチャカ・カーンの「I'm Every Woman」が流れてきたのだ。ディスコ・ミュージックでありながらその範疇からもはみ出た本当の名曲だ。嬉しい気持ちをいっぱいに抱えて扉を開けるとパイナップル・ドレスを身に纏ったマニラ・ルゾンがそこにいた。前の曲に比べると笑っちゃうぐらい低音がない。でもそれがいい。その隙間にリズムが満ちていく。そうして私の心は浮き足立つ。完璧なパフォーマンスに私も音楽を全身に浴びることで応えた。最高の夜になった。

I'm Every Woman ‑ 曲・歌詞:チャカ・カーン | Spotify

翌日に控えたナイポレの選曲のためにメル・トーメをここ数日聴き返していたのだが、帰宅後、追い込みでさらにいろいろ聴いていたら頭が開いてしまった。音楽最高。音楽ってこんなに嬉しいものなんだね、と気がついたら指を鳴らしてしまっていた。悲しいこともいくつかあったけど音楽がふたをしてくれた。

 

2日

昼間ナイポレの収録。頭がパカーンと開いてしまったため、情熱が語彙力を追い越してしまって変な感じになってしまった気がする。

夜はレコーディング。「窓辺にて」以来のTANTAでこれまたいいテイクが録れた。たのしみ。

 

5日

朝、シゲルさんに髪を切ってもらって11時開店のはずの大勝軒が10時半には開いていてラーメンを食べた。本屋を冷やかして吉祥寺に出る。ルーエでアフター6ジャンクションの予習も兼ねて本を何冊も買って家に戻った。

夕方、大比良さんのライヴに向かうために下北沢に向かう。表情の違う朝と同じ道をまた行く。ADRIFTは初めていくライヴハウスでいいところだった。新しい場所だし、とてもきれいなのに、私が今まで演奏してきた公民館や体育館やライヴハウスも頭をかすめるような不思議な場所だった。いい意味でライヴハウスっぽくなくてここで好きなバンドのライヴを見れてたらいいだろうな、なんてふと思った。ここで誰を見たら気分がいいんだろう?

終演後、直枝さんが観にきてくれたと知って驚く。ちょうど昨夜、カーネーションの新譜を聴いていたのだ。「カルーセル・サークル」は傑作で、そのしなやかさ、その軽やかさは一体なんだろう、とドキドキしながら聴いていたから、目の前にその当人が現れて、数えたらもう10年とかの付き合いになるはずなのにはじめて話すファンのような気持ちになってしまった。とにかく「カルーセル・サークル」は私をそうさせてしまったアルバムだ。傑作、聴くべし。

Carousel Circle ‑「Album」by カーネーション | Spotify