幻燈日記帳

認める・認めない

おれたちはしないよ



恋人と電車に乗って恋人は仕事へ、僕は渋谷に出た。もう4ヶ月もすれば29歳になるのに自分はまともとされる仕事にはつかずに何をやっているんだ、と思ったような気もするが、忘れてしまった。楽器屋に寄ってあれやこれや必要なものを考える。宅録の環境を少しでも向上させよう、という話になったのだ。その流れでギターをいくつか見る。今使っているギターはリッケンバッカー360。ルックスは最高だし、音もいい。でもおおきいおなかとネックの関係性でチューニングがどうしても甘くなってしまう。以前それを友人に相談したら「リッケンやギブソンはそういうところ甘いかもしれない。フェンダーがいいよ、演奏者じゃなくて技術屋としてギターを作っているからね」と言われたのだった。多少のピッチのズレはライヴでは仕方ないと思っている。ギターをかきむしれば、腹を支点として、エモくなった左手が力点となり、ギターは揺れ、ピッチも揺れのだ。アル・アンダーソンはどうしていたんだろう。ともかく友人の進言を真に受けてテレキャスを試奏してみる。少し経って気づいたが、試奏でエモい瞬間は永遠に訪れない。あと僕が弾くと6弦の音が異常に出てしまう。過去に人からフェンダーのギター借りて弾くとよくそうなったことを思い出したんだけどこれってそういう設定なのだろうか。個体差?そんなの後からどうだって設定できるんだろうけど。そして5分ほど試奏してもういいやと思ったのに案内してくれた店員がいない。15分ほどもういいのに、と思いながらピロピロ言わしていた。別の店員さんが通りかかった時にアイコンタクトで接近。無事に試奏が終わった。うーん、個体差なのかなあ、個体差だとしても試奏でこれだと先が思いやられる、と落ち込んで店を出ようとしたらレジの男性に声をかけられる。なんだなんだと思ったら大学の後輩だった。僕が4年の時に1年だった人だった。「ギターの音聴いて澤部さんじゃないかな〜と思ったんですよ」と言われ赤面、今すぐ俺を殺してくれ案件発生。今すぐ俺を殺してくれー!とレコファンに入ったら磯部さんに遭遇。レコードの棚をお互いさくさく見ながらスマートに会話。なんか大人っぽい、と磯部さんと別れた後、思い出し笑いのように思った。
HMVも物色、なにか気が乗らずすぐに出てしまった。レコ屋入ってもあまり見る気がしなくて出てきてしまうことがたまにあるんだけど、なんでだろう。きっとこういう時に探していたレコードがあったんじゃないか、なんて思い込んでしまう。
その足でタワーレコード5Fのパイドパイパーハウスへ。もうじき失効してしまうポイントがあるのでぶわーっと浪費。ピチカート・ファイヴベリッシマ」のアナログ、最近妙な縁を感じていたWendy and Bonnieの"Genesis"とローラ・ニーロのライヴ盤を買った。溜まっていたポイントなんかあっという間になくなってそれを上回る請求額に私の財布は涙でカビてしまった。パイドパイパーハウスのLP用のビニールをほくほく顔で受け取った。最初のうちは持ち手すら崩したくない!と小脇に抱えていたのだが、この夏、通気性ゼロのビニール袋は小脇に抱えるのはあまりにもつらすぎた。すべてあきらめたら私は持ち手をくしゃくしゃにしながら帰り道の電車に飛び乗ったのだった。
部屋に戻り、部屋に冷房を入れていく。居間にはにエアコンがないので作業部屋の冷気を扇風機で送りながら散らかった居間を少しずつ片付けてながら買ってきたレコードに針を落とした。ベリッシマは確か高校生の頃には買って聴いていたはずだ。中学生の時にピチカート・ファイヴにハマったのだがお小遣いの関係で中古盤を買うにしても、新品で買うにしてものろのろと寄り道をしながらだったと記憶しているので、カップルズとベリッシマにたどり着くに3年以上はかかっているはずなのだ。最初はカップルズなんてもちろん解らなかった。エコーでバッシャンバッシャンした音像に抵抗があったからだと思う。それなのに"antique'96"に収録されていた「皆笑った」のニューミックスを聴いた時に「なんか物足りない」と思った時にハッとして聴き返したらもう虜になっていた。ベリッシマももちろん解らなかった。事あるごとに何度もチャレンジしては首をかしげていた。大好きな曲は何曲も入っているのに!どうしてだ、もしかしたら一生わからないのかもしれない、と思っていた私の前に現れたのはceroの"Obscure Ride"というアルバムだった。しばらく時間が経ってベリッシマを思い出して「日曜日の印象」という曲を聴いた途端、急に「わかった」としか説明できない状態になった。そうだったのか!なにが?と言われるとまとめることは出来ないんだけど、ムーンライダーズのアマチュア・アカデミー、ピチカート・ファイヴベリッシマ小沢健二のeclectic、ceroのObscure Rideが自分の中で一本の線になった気がする、ということ。その後、高城くんがライヴで「日曜日の印象」をカバーしていたと知った時は流石に出来過ぎだろ、って自分でも思った。