幻燈日記帳

認める・認めない

恋する歯科衛生士



窓を開けると雑然とした6畳の作業部屋を風が吹き抜ける。まっさらな文庫本をまっさらではない手がめくっていく。爪も少し伸びたことに気がついた。こうして新しい文庫本をめくるなんていつぶりだろう。感慨にふけるほど昔のことではないのは知っている。でも、今はそう思いたい。文庫で漫画を読むのはあまり好きじゃない。何故か不自由な気持ちになる。痒いところに手が届かない感じ。何かが足りない気がする。昨日買った漫画の中に大島弓子さんの文庫があった。先日の日記にも書いたが母から勧められた大島弓子さんの漫画は「ヨハネがすき」だった。大島弓子さんを初めて読んだのは母の本棚に刺さっていた「海にいるのは…」の文庫。それまでに僕が読んだどんな漫画より読みづらく、文字が多く、でも何かひとつのきっかけで深く刺さる。あまりそういう経験がなかったから金がないなりに古本屋に行っては当時の単行本や選集を買ったりしていた。取りこぼしてしまっていた作品がいくつもあると気づいた頃にはフリーター特有の貧困に見舞われ、当時の単行本と選集をごっちゃに買っていたことが仇になっていた事に気がつくことになる。そうしてあっという間に月日は過ぎて、今に至ってしまった。丁寧になる必要もないのに構えてしまう。でもそれを軽々と越えてくるあのしなやかさはなんだ。


ちょっとした用事を済ますため、神泉の事務所に向かう。自転車に乗り、吉祥寺まで向かう。読もうと思っていた本は鞄の中にしまったまま、ぼんやりと音楽を聴きながら普通列車に揺られ、時間をかけて神泉に着き、ちょっとした用事と簡単な打ち合わせを済ませ、井の頭線で吉祥寺に戻った。
遅めの昼食をさっと済ませ、ココナッツディスクに納品ついでの買い物。7インチを3枚、CDを2枚買う。斉藤哲夫さんの「グッド・タイム・ミュージック」の7インチ(B面アルバム未収!)も嬉しかったけど、ジャイミ&ナイールというブラジルの方のCDをジャケ買い。聴くのが楽しみ。買い物終わってついつい長く話し込んでしまった。レコーディングで自分の音楽の事ばかり考えていたこの数ヶ月、久しぶりに心のそこから音楽の話をしたような気がした。


細々としたまったく派手さのない作業を部屋でちまちまとこなしていく。そういう風にここ数日が過ぎて行った。長いようで短い毎日。