幻燈日記帳

認める・認めない

いつもさようなら



スーパーに行くために一日ぶりに部屋を出る。甘く切ない自宅作業の日々よ。そこから冷えるような真冬はついに過ぎた。北向きの駐車場の雪もほとんど溶けた。春の予感である。人生は春だね!
粗末な夕食を摂り終えて仕事にかかる。うまくいかないなかでもしっぽを掴めばそこから広げていく。そしてデモを作り終えた。深夜三時。私は山を越えた。ある種の達成感と一緒にマネージャーにデモを送信。しかし実際越えたと思っていた行為はせいぜいその山を越えるために十分なものを買い込んだだけだった、というのはよくある話。私は来るべき山の存在のためにやれるだけのことをやったのだろうか。山は普段のナイキのスニーカーを履いている私を見たらなんていうだろうか。私は今、山を越えたい。同時進行でふたつの案件が進んでいて、ひとつはデモを送信したが、もうひとつは作詩が残っていたのだ。デモを送信して、肩の荷降りたわ〜と布団に潜り込んだあたりで空恐ろしくなって身体は疲れているから眠っているんだけど、使い倒した頭だけぼんやり起きていて眠れない状態の中、話し声が聞こえる。「そういえば詩書いてないじゃん!」「大丈夫さ、いつものようにやれば平気だよ」「録音はいつだ!」「最近買って読めてない漫画も読もうね」「ベーシックは◯日、歌入れは◯◯日です!」「余裕はないようである」「余裕はあるようでないとも言える」「寝るしかないよね!」。最近、眠る前はピチカート・ファイヴの「カップルズ」を小さい音聴いている。会話の奥の方から「いつもさようなら」が聴こえたとき、いつも聴いているのとは違うアレンジが聴こえたような気がして、一瞬目が覚めたけど「いいから寝ろ!」とそこから先は夢の中だった。もしかしたら、全部まとめてそういう夢だったのかもしれない。
そして今日、起きてレコードを聴いていたところに電話がなった。リテイクのお知らせだった。私は山を超えたい。