幻燈日記帳

認める・認めない

そうゆう訳で船を作ったんだ

以下、6/7から6/12、"THE SUPER MOON"へと至る日記となります。7/18まで配信をやっておりますのでみなさまぜひ御覧ください。日記はセットリストを含むネタバレばかりとなっておりますのでご了承ください。

【配信】moonriders 45th anniversary "THE SUPER MOON" | ticket board

 

 

 

 

6/7

ムーンライダーズのリハーサルが始まった。はじめて入るスタジオ!はじめてスタジオで鳴らすギター!最高。慶一さんが挨拶で「みなさんはこれから一週間ムーンライダーズのメンバーです」と言って最高&プレッシャーで感情がぐちゃぐちゃになる。最初に合わせたのは『夏の日のオーガズム』。今回のライヴは前編がオリジナルメンバーのライダーズを中心としたアコースティックセット、そして全体が加わる後半。その後半の曲順で合わせていくようだ。優介の原曲に忠実なシンセの音色に早速心が躍る。アコギにするべきか、エレキにするべきか、というのをスタジオの流れを見ながら、良明さん、慶一さんの意見をもらいながら決めていく。『夏の日のオーガズム』はエレキになった。バッキングのあのエレキギターだよ!

『春のナヌーク』はアコギをかき鳴らしながらハモり。これがとてつもなく気持ちがいい。

『スパークリング・ジェントルマン』と『酔いどれダンスミュージック』は新アレンジ。どの曲もそうだけど、(管が入るから、というのも大きな理由だと思うんだけど)ほとんどの譜面が昔の譜面じゃなくて、今回のために用意された譜面が届いている。45周年を迎えてもなお、アップデートされつづけているその様に静かに、そして大きく感動したのだ。初期のレパートリーを確実に今のムードに近づけていく。そうしてその2曲が徐々に形づいていくのがめちゃくちゃ面白い。こうなるんだ、そうなるんだ、ああいま僕はムーンライダーズなんだ!

その後も順調にあたりをつけていって初日のリハーサルを早引けしてサンレコの取材を受ける。何度も「底辺DTMerですけど大丈夫ですか」と念押しした企画。そのうち記事になると思います(註:なった)。取材からの帰り道はムーンライダーズを全曲シャッフルで聴いた。夜風とムーンライダーズで気分が高揚してくる。

 

6/8

昨日、バンドは全曲分を触っていたのでリハーサルの序盤は前半部分のリハーサル。漏れ聞こえてくる『弱気な不良 Part-2』に震える。そしてヴォーカルで参加する『夢が見れる機械が欲しい』をあわせる。一度慶一さんからヴォーカルを取ってほしい、とメールが来ていたのだが、「たとえば原曲と同じでオクターヴ上だとどうでしょう」と提案。スタジオに入ると慶一さんは「すごいね、(原曲聴いたら)ずっとオクターヴ上歌ってたよ」と笑っていた。そういうやりとりを経て、くじらさんの歌う主メロのオクターヴ上を歌う。普段だったら裏声にしなくても出る音域だけど、曲に合わせてほとんどのパートを裏声にしてみたらハマって、詩やメロディがどんどん入ってくるし、どんどん飛んでいく。「一匹の虫が鳴いてるだけ」と歌っている時、音楽がとても気持ちよくできている感覚と深すぎる孤独が同時に襲ってきて、これらは本当に相反するもので、矛盾しているのだろうか、とか考え込みそうになり、大変なことになった。それなのに、演奏が終わった頃にはバグり散らかした感情が元通り、いや晴れ渡っているじゃないか。これが浄化なのだろうか。その浄化された気持ちですぐ「夏の日のオーガズム」を合わせたのだが、やはりまだ完全に気持ちが元通りになっていなかったらしく、譜面を追えない瞬間がたくさんできてしまって、いろいろ紙一重なのだ、と今更ながら改めて痛感した。

休憩の間、野田さんと話す。「いやー昨日は驚きましたよ。ムーンライダーズのメンバーだなんて!」というと「もう打ち合わせの段階でゲスト、っていう言い方をするのはやめたい、って話し合っていた」という。

全体パートのリハーサルが終わって「じゃあバンドの皆さんは明日3時に」と言われ、合わせる曲も数曲なのだから残ったりすりゃよかったんだけど、ずっと居てもずっと居る人になっちゃうな(はじめて慶一さんのレコーディングに参加したとき、まだ20代半ばで外部のスタジオなんてほとんど来たことがなくて、自分の録音が終わったあとにどういうタイミングでどのように帰ったらいいかわからず、ずっと居座ってしまったトラウマがあるのだ)、とそそくさと家に帰って、3度目の追い焚きの湯に浸かり疲れを蒸発させようと試みる。

 

6/9

スタジオに入る前に衣装に着れる服を探しに新宿の某服屋へ。ちょっとハデめのものを…と探したがサイズがない。泣きながら「いいものがない…」と家にいる恋人にLINEをするとその服屋のサイトを見ながら在庫があるやつでいいものを見繕ってくれた。購入。新宿からスタジオへ向かう間、昨日の録音を聴き返す。やっぱり「夢が見れる機械が欲しい」すげえ、って笑っちゃった。

三日目、ということもあって緊張がようやく和らいできた気がする。「夢が見れる機械が欲しい」のあとでも譜面を追えなくなったりもしなかった。ミスは少しずつ減っている。序盤の方では最後まで演奏する、という大きな目標があったような気がするけど、3日目になり、コーラスの細かい確認など、より細部の確認にバンドが移行していく感じも楽しい。

休憩時間、なおみちさんと「スパークリング・ジェントルマン」をあわせる。優介がキーボードを触っていたので覗いてみる。スカートでは車に積みっぱなしのKORGのキーボードを広げるだけだが、レンタルのキーボード、持ち込みのMIDIキーボードとPCに囲まれてて「ふふふ、本気の現場じゃないとこれ(MIDIキーボードとPC)持ってこないから」と言っては「涙は悲しさだけで、出来てるんじゃない」のメロトロンの音色をテープシュミレーターのプラグインをかけ、揺らして微調整をしていた。「原曲のメロトロン、ちょっと揺れてるからね」。マニアの受難である。

 

6/10

最終日。バンド全体で何曲か確認。『スパークリング・ジェントルマン』で一箇所歌詞を間違えて、そのまま譜面を見落としていった。メンタル弱すぎ。その他もより細かくコーラスを詰めていったりしながらも、スムーズに進み、全体を通す。序盤も最高。事前に配られた歌詞を見ながらリハーサルをライヴのように楽しむ。『蒸気でできたプレイグランド劇場で』の最後の歌詞が変わっていて泣きそうになる。アマチュア・アカデミーからの2曲も感極まっちゃう。そうこうしていると出番が来た。『弱気な不良 Part-2』の後奏からステージに入るのを意識して、そのまま『夢が見れる機械が欲しい』へ。2日前に感じた感覚も体に染み付き、心が必要以上に揺さぶられないようにはなった気がする。『夏の日のオーガズム』以降の後半のバントパートで慶一さんが椅子から立ち上がってギターを弾いている後ろ姿を見ていて、改めて実感が胸に押し寄せた。

くじらさんの奥さん、道子さんと話していて、「ムーンライダーズではどんな曲が好きなの?」と訊かれて本当に困ってしまった。なんとか「くじらさんの作品なら『俺はそんなに馬鹿じゃない』が大好きです」というのが精一杯だった。ライダーズの話をしていて終わりの方で「普段あんまり歌詞カードみてCD聴かないじゃない?だからリハーサルで歌詞カード見ながら聴くと改めてこういうこと歌っていたのね、って驚くの」とおっしゃっていて、『夢が見れる機械が欲しい』をはじめて歌った時のことを思い出した。歌詞カードも見ながら聴いたし、詩集でも読んだこともあったけど、思い返せば歌詞カード見ながら歌ったことなんてあっただろうか。そうだとしたら単純に驚いていただけなのかもしれない。

くたくたで終了。スカートチームと慶一さんで待合室でクールダウン。住んでいる場所の話や、衣装の話をしたり、昔の話をいろいろうかがう。あの曲のあのフレーズすごいっすね、とか、そういうところからいろんなエピソードが出てくる。長くいすぎて話の途中で笹川さんが「はい!もう終わりです。早く帰りましょう~」と入ってきて解散。帰り道、改めて『涙は悲しさだけで、出来てるんじゃない』のオリジナルを聞き返した。

 

6/11

アメリカン・ユートピア見に行こうかと思ったけど、ストイックに行こう、と断念。最終確認をして、楽譜にちょっと手を入れて、洗濯しておとなしくその日を迎えよう。

 

6/12

ライヴに対する細かく(楽器の持ち替えはゆったりやりたい、といった内容からアウトロ、譜面とは変えよう、とか)やりとりが直前までメールで飛び交っていて嬉しくなっちゃった。起床して熱を測り、平熱を確認。カムジャ麺を作って食べる。何度も細かく持ち物もチェックしたから忘れ物もなく家を出ることができた。車で最終日のリハを確認しながらあそこはこう、そこはこう、なんてシミュレーションしていく。ああ本当に今夜、ムーンライダーズのステージに立つのか。

EX THEATREに行くのは2度目で、前回来たのはなんでだったのかイマイチ思い出せない。ceroのライヴだったことは確かなんだけど、そのときもなぜか車で乗り付けたことは覚えている。機材の回収だとしてもceroがスカートの機材使うとは思えないし、あれはなんだったんだろう。

ついてすぐ楽器の音を出し、そのままリハーサル。僕は4日間のリハーサルで得たモニターの感覚が広いホールのステージ上ともなると少しズレてしまって最初は手間取ったものの、なんとかうまくやれそうだし、なんとなくみんな調子がいい気がする。リハーサルの途中で岡田さんが到着。腰を骨折してしまって入院生活を余儀なくされ、今回のリハーサルは不参加だったものの、なんとライヴの直前に無事退院。アンコールでステージに立つことになった。アンコールのリハのとき、岡田さんが挨拶をされて、そのまま『さよならは夜明けの夢に』。はじめていったライダーズのライヴの1曲目だったし、なんてたって優介+ムーンライダーズでの演奏だったもんだから、泣いちゃった。

「夢が見れる機械が欲しい」を合わせているとき、それまで使っていたものではなく、リハの初日に配られたものを間違って出してしまっていて、途中で歌詞をロストしてしまった。何一つ思い通りに行くと思うな、本番には魔物がいるんだ、ということを改めて肝に銘じ、間違えてみていた歌詞カードを4つに折り畳んだ。リハーサルが終わって楽屋に戻り、しばらく経った頃、ステージが映し出されたモニターを見ていたら優介はまだ機材のチェックをしているようだった。チェックが終わった優介とふたりで楽屋に入った岡田さんと会う。今回のライヴの話をして、『さよならは夜明けの夢に』はふたりでピアノとエレピで分けようか、とか話しているのを眺める。「ほら、レコーディングだとピアノもエレピもつかってるし」「あの曲はほとんど慶一とふたりで録音したんだ。でもコーラスにすごく時間かけてディレクターが怒るんだよ。だから先に帰らせた。」と笑いながら岡田さんがいう。元気で本当によかった。「今日のライヴはスーパームーンライダーズ?」と訊かれたので「正式なのはわかりませんが慶一さんはライヴのタイトルと同じ、”THE SUPER MOON”とリハーサルでは紹介してくれましたよ」と伝える。

 

本番10分前にみんなで45周年と岡田さんの退院を祝うケーキを囲んで記念撮影。下手の舞台袖でライヴを観る。『BTOF』に向かう優介を見送って自分も上手に移動。上手に向かうために細く、天井が高い裏の動線をライダーズの演奏を聴きながら歩く。ああ本当に今夜、ムーンライダーズのステージに立つのだ。『Masque-rider』がキまり、『弱気な不良 Part-2』の混沌の中、ステージに出ていき、優介がピアノを弾く。くじらさんと目を合わせる。そうして歌い出す。